ショーダウン
天幕に入ると、ハーラントに椅子をすすめた。
ディスタンに水を持ってくるように頼むと、広い天幕に二人きりになる。
「さあ、それじゃあ本当のことをはなしてもらおうか、ハーラントさん。何の目的でここにきたのか。なぜわざと負けたのか。話によっては、相談にのることもできるかもしれない」
許容範囲をこえたハーラントの体重に、椅子がミシミシ鳴った。
「とりあえず、酒でも出せ。人間の酒で強いものがあるだろ。あれが飲みたい」
ムキムキの肉ダルマが、子どものように期待している姿に苦笑しながら、水を持ってきたディスタンに強い酒を持ってくるように依頼する。
「酒は持ってくるから、話を続けようか」
「まずは、我に教えて欲しい。もし我が勝ったら、お前達は本当に降伏したか」
ウソをつくこともできたが、なぜか本当のことを告げるのが一番正しいという直感があった。
「降伏したよ、私たち人間は。ただ、黒鼻族たちは降伏しなかっただろうし、降伏するという約束もしていない。投槍で間違いなく君は殺されていたと思う」
ハーラントは大声で笑う。
ちょうど火酒をもってきたディスタンが、大声で笑うハーラントを横目に見ながら酒と木のコップを置いて黙って天幕から出ていった。
「これを飲めば、舌も滑らかになるかな」
そういいながら、酒をコップに注ぐ。コップを受け取ったハーラントは、匂いをかいでからかなり強い酒を一気に飲み干す。
「うん、人間の生みだすものの中で、この酒だけは素晴らしいと認めるしかないな。人間は降伏した、か。こずるいお前たちの考えそうなことだ」
「黒鼻族を恐れて、わざと負けたのか」
私の問いに、鬼角族は少しムッとした顔をしていたが、すぐに元の表情にもどり、空のコップを突き出した。
「もう一杯入れてくれ。我はあんな羊など、これっぽちも恐れんよ。逆にきいておきたい。お前はなぜ、我との戦いの中で、爪の垢ほどの殺意も持たなかったのか。キンネクは相手の殺意には敏感だ。それが相撲であっても、殺すチャンスがあれば少しは殺気を漏らしてしまうものだ。お前にはまったく殺意がなかった。もし我が勝てば、殺意のないお前のかわりに別の人間が我らを害するかもしれん。お前なら、負けても絶対に我らを害することはないと確信したのだ」
そういって、グッと酒をあおる。コップに酒をつぎながら、私は核心に触れることにした。
「なにがあった。鬼……キンネクは、戦場に女を連れていかないはずだ。十人も女を連れた君たちは、そもそも戦いにきたのではないんだろ? 私に勝っても、あの人数ではこの村を支配することはできないはずだ。だから少しでも、自分たちに高い値段をつけて売り込もうとしたんだ。わざと負けたのも、私に恩を売るためなのか」
ハーラントはコップを瞬時に空にして、また突き出してきた。
「人間の
はじめは三十名の戦士だと思っていたことや、女性がいることは勝負が終わったあとに初めて知ったことは、あえて伝える必要はないだろう。
「はっきりいわせてもらうと、私は君たちがこれほど早く来るとは思っていなかった。私の予想では、キンネクは二百以上の騎兵で十日より後に、この村を襲うと考えていた。君たちが主力部隊の先遣隊だった場合、私たちはこの村を守ることも、生き延びることもできないはずだった。そこで、相撲という平和的な戦いを仕掛けることで、勝っても負けても、たとえ捕虜や奴隷になってでも、生き延びる可能性を高めようとしたわけだ」
私は自分から、手札を
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