望まぬ再会


「セツキ、ケンゴク、その他、でてこい」


「大将と俺を除いてあとひとまとめってのはおめえさんらしいな、サイ。久しぶりだな」


「この場に挨拶など不要。それとも武士の礼儀を通しているつもりか? 私を殺処分する目的でこんなところにひそんでいたというのに? それはなにか、冗句か?」


「……。相変わらずきっついな、おめえは」


 サイの文句に林からでてきたケンゴクの表情が一瞬苦痛に歪む。遅れてでてきたセツキは美貌こそなにもかも押し殺した無表情だが、瞳にはケンゴク以上に苦い感情がある。いや、どちらかというと苦しむような色。セツキほどの武士がなにを苦に思うのかイミフ。


「あの日以来ですね、サイ」


「うむ。だから?」


「……っ、特にこれと言って」


 サイの冷たい反応にセツキも息を詰める。セツキの抱える気持ちを知っているココリエはサイの無意識無自覚の残酷を惨いと思ったが、言えない。サイに死ねと迫っている身で「惨いぞ」などと言える筈がないのだ。言えない。絶対に。言ってはならない。


 セツキとケンゴクの後ろに集まる兵十五人は緊張で噴き零れんばかりに煮立っているのが目に現れている。殺意、憎悪が揺れる。


 ファバルの意思を継いで来た者たちばかりだろうから当然。上官たちがどんなにサイを安楽に死なせてやろうと思っていても、ファバルは違う。娘を、ルィルシエを苦病に堕としたとしてサイに悲惨な死を望んでいる。


 だからか、兵たちの目にサイはファバルの意思を見たような気がした。初見の印象と少し違う。柔らかでありながら内に剣を宿していた筈の男はルィルシエのことがあってからサイを明確に悪として扱ってきた。だから柔らかな優しい面はもう望めない。


 サイは悪くない。悪くない筈なのにひとりが悪と謗ったならそれは悪になる。ひとり、それも国王が謗ったのならば。ココリエが悪意に中てられていないのが唯一の救い。彼まで憎悪に染まり、サイを怨敵としたならサイはどうしてか不明でも心が潰れると思った。


「……サイ」


「なにか」


「今すぐ投降していただけませんか? 処刑はルィルシエ様の目が届かぬ場所で行いますし、マシーズ王にも詫びを一筆したため」


「死に支度を整えてやるから殺される為にウッペへ戻れ、お前のことなどどうでもいい」


「違……っ」


「違わぬ。セツキ、お前が案じているのは所詮ココリエとルィルシエだ。私の心がいかほどに潰れて死んでいこうと屁とも思わぬのだろう? そのことを責めはせぬ」


「サイっ……!」


 セツキの必死の言葉もサイにはもう届かない。サイの心は氷のようになってしまった。


 マナの前でだけ安心できる氷の心は脆く儚いのに冷たくて痛い。セツキの言葉を正確に言い直してやるサイにセツキの悲痛な声は届かない。弾かれて虚しく無に還っていく。


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