発作
本当に胸が焼けるように痛い。淋しそうに一瞬空を仰いでいたサイが振り向く。そしてすぐ異常に気づく。ルィルシエの口元にあってはならないものがあったからだ。
「ルィルシエっ!」
「む、ぅ、ぅえ……ごほっ」
サイがルィルシエの名を叫んだと同時に少女が咳き込む。喉に引っかかっていた液体が飛びだす。それは滲む視界に不良がなければ赤かった。……赤? なんの、赤……?
「ルィルシエ! 意識を保て!」
「ごほっがはっ、おえ、うえぇ……ごぼっ」
健診もしくは加療に訪れている者たちの天幕が並ぶのと少し外れた場所だったのが災いして誰も騒ぎに気づかない。サイはルィルシエに意識を保つように言い、抱きあげて基本検査天幕への道すがら教えられていた医師たちが集まる会議場も兼ねた小屋に急いだ。
それだけ天幕でないので見つけやすいが、そこへいくほんの数秒の間にもルィルシエは血を吐き、弱っていく。サイはあとで叱られてもいい、と思い、医師の小屋を蹴破って開けた。中にいた医師たち数名が目を見開いて驚く中、一番に口を利いたのがいた。
「サイ? どうしま」
中で書類を流し読みしていたジグスエントが突然飛び込んできたサイに疑問符を浮かべていたが彼女が抱えているウッペ王女を見るなり、驚いて目を見開いた。
が、すぐ他の医師たちに素早く指示を与えて彼のそばに寄ってきたハクハにはウッペの天幕にこのことを報せにいくように言いつけ、サイがなにも言わなくともすぐ診察してくれることになった。サイを連れて小屋からでたジグスエントは隣に立つ天幕に入った。
「ゆっくり、おろしてください」
天幕に入り、紗幕を開けて自然光を入れながらサイに指示するジグスエントは手袋とマスクをしてルィルシエの容体を診はじめた。ファバルがちらっとだけ言っていたが、ジグスエントは医師の免状の中でも最高のものをこの戦国島では唯一取得しているらしい。
このカシウアザンカに現在詰めている医師の中では最高峰の頭脳と知識量、技術を持っているジグスエントが偶然でも小屋にいてくれてよかった、とサイは感謝した。ルィルシエの持ちあわせている運とジグスエントが書類整理をしていた幸運に心から感謝した。
だが、どうにも事態は芳しくない。ジグスエントの表情は厳しい。まるで重篤な、今にも死にそうな者を診るかのようにルィルシエを診察していくオルボウル王はルィルシエの脈をはかりながら彼女の口に呼吸補助のマスクを当て、一度身を起こした。
「これまでに」
「ない。ここ最近、頻繁に胸焼けを訴えていたくらいでこんな、吐血するなどなかった」
「胸焼け? それはどのようなものか聞いていますか? サイ、詳細を。もしかしたら」
もしかしたらなんなのか、正直あまり聞きたくないが、サイは知る限りジグスエントに報告した。胃酸の逆流とも違う。じくじくじりじりと焼けるような、本当に焼けていく感じで喉越しのいい病食をつくって養生させていたなど話していると外が騒がしくなった。
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