着替えて検査に
「着替える意味がまったくわからぬ」
「そう言うな。一応の決まりだ」
「で、お前はなにをじろじろ見ているか」
「不公平ですわ」
「?」
「うう、海神様は不公平ですわぁ」
イミフ。朝一番のイミフである。朝、起床したウッペの王族たちはサイが布団に入らず寝てもいなかったことに驚いていたが、サイは元々夜行性を主張して心配をげしっ。
事前に健診の予定は聞いていた。
一通り検査を受けてその結果を元に問診と診察があり、それが五日連続で行われると。まあ、精密検査も兼ねつつ、体に負担がないように予定が組まれているのだ。
兄妹とサイは若いので検査項目が少ないがファバルは戦国の常識ではおっさんなので検査項目が多いそうだ。それを負担なく受ける為に五日、という日数を費やすらしい。
まあ、なにはともあれ……。
「ひとまず基本検査にいこうか。血圧、身長体重、採血検尿、私は年齢の関係で便も」
「ここは戦国だと何度も聞いているが」
「どうした?」
「そんなもの採取してどう調べる気でいるのだ? 電気など通っていないのではないか」
「ああ、検査に必要なでんき? とかいうのは風力ではつでんして補っているらしい」
「……。本当にあのじじいの話してくれやがった戦国時代というものの常識が崩れる」
「誰だ?」
ファバルの電気一応ある、という説明でサイが零した一言にファバルが喰いつく。この社交性が空の彼方、もしくは海の底にありそうな娘に一定以上の関係を築いていた者がいたとはちょっとした驚きだ。いや、そう思っても言わないけどね。殴られる。
「ハイザー、ハイリザード・オン・ジュデアと名乗っていたが実際は不明のクソじじい。定期的に私を名指しで腐れ仕事を入れてくれやがっていた黒組織のじいさんだ」
「黒、組織?」
「一般からかけ離れた裏方の仕事、取引を行ったりする者共の集まりをそう呼ぶ」
「暗部、のようなものか?」
「……。そんなものだ。私もその闇社会の住人なのでとやかく言う気はないがな」
ファバルの確認にサイは自嘲を含んで答えた。自嘲の中にある悲しみ。淋しさ。戦国に来てはじめてぬくもりに触れたサイにとって今まで属していた世界、社会を否定している気分にでもなっているのか、声に独特の暗さ。彼女はもう冷たいだけの殺人者ではない。
そのことを、一度でも暗黒の世界に住まっていたことを悔いているのか……。
「いこうか」
検査の為の簡易着物に着替え、いつもより体の線がわかる格好のサイに羨ましそうな視線を送っている娘と赤くなっている息子に声をかけ、サイにもついて来い、と手招きして先導するファバルに十代の者たちが続く。
基本検査の天幕は目立つところに設置されている、というファバルの説明を聞きながらサイはこんな時、健診に来ている時なのに周囲を警戒している。ピリピリしている。
ココリエもファバルもサイの警戒に苦笑い。まさか健康診断中にまで警戒をしてくれるとはってかそんなに警戒ばかりしていて疲れないのだろうか? なんて思った。
まあさせておく分には自由なので咎める気はないが、たまには甘えたり、気を抜いてもいいと思うのだが、サイなので心配に暴言を返して平然と自分正しいしそうだ。
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