唐突すぎてついていけません


「お爺様、声を落としてくださいっ」


「なぜじゃ、セツキ。愛は炎。さ、おんしの想いの丈を今すぐ娘にぶつけるのじゃ!」


「い、え、ですから私はその」


「なんじゃごねおって。わしの目を誤魔化せると思うな、セツキ。その娘さんをおんしは心から、他の誰にも負けぬほどに強く、深く愛しておるのじゃろうがい!」


 爆弾発言とはこういうのを言うのだろう。


 ココリエは深々とそう思った。チモクの爆弾にセツキもココリエも固まってしまった。


 特にセツキは真っ赤な顔でバツが悪そうな表情をしている。その表情を見てココリエはピンときた。いつもきつく当たっている傭兵娘との婚姻話になぜセツキが不明瞭な返答を繰り返すのかわかってしまったココリエは信じられない、という目でセツキを見た。


 セツキはココリエの視線から逃れようと首を振る。が、ココリエはセツキの胸倉付近の着物を掴んで自分の方に向かせようとしている。セツキは必死で抵抗する。


 ふたりの無言の攻防を見、今まで黙っていろを守っていた女がとうとう口を利いた。


「なにをしている?」


「サイ、悪いが今は邪魔を」


「これ以上のけ者にすな。結局なにがなになのかイミフなのだが、とりあえず現在の己らがイミフ大賞受賞だ。おめでとう。……と、いうわけでいい加減説明をくれ」


「だから、今は忙しいからあとで話して」


「いや、私についての話題なのだから仲間に入れろ。関係者をのけるのは不義理である」


 ごもっとも。だが、今は本当にそれどころではない。信じられない。セツキの気持ち。


 セツキにサイへの気持ちなどないと勝手に思い込んでいた。いや、想像するのは難い。普段のあの当たりようを見ている限り……あれ、でも最近セツキは説教が減っているような気がしなくもない。少なくともサイに非のない説教はなくなっている。


 いけないことをした時などは怒られているが、それ以外、ふたりは仲良くもなく悪くもなくな雰囲気である。むしろ茶の話では結構盛りあがっているように感じる時がたまにあったので、これは明日の天気が怖い、なんてケンゴクと笑ったものだ。なのに……。


「セツ、キ?」


「……っ」


 サイの仲間外れやめれ、混ぜれを無視してココリエはセツキに声を投げる。声は震えていた。驚愕と恐怖そして激しい怒りで。セツキはココリエの声にさらに顔を背けようとしたが、ココリエが許さない。こっち向け、とばかり彼の着物をぐいぐい引く。


 徹底的に王子を見ないセツキ。すっげえ違和感である。いつもは逆だ。いつもはセツキの説教があると察知した瞬間、ココリエは目を逸らす。徹底的に見ない。それでいないいない、いなくなれ~、と阿呆する。無意味極まる行動だが、一種の条件反射だ。


 なのに、今、セツキの方がココリエから逃げようとしている。……特大イミフ。


「セツキ、どうして……、なぜ黙って」


「ち、違っ、これはそのお爺様が勝手に、その妄想を、私はサイのことなど」


「誰が妄想じじいじゃ!? おんしがこれまでの人生でそんな目を女に向けたことがあったか? 否、断じて否じゃ! そのを愛しているのだろうが、バカちん!」


「や、やめてくださいお爺様! これ以上ココリエ様、サイにまで誤解を広げるような」


「誤解なんぞどこにもないだろうが! セツキ、なにを言うとるんじゃ、おんしは?」


 セツキの言葉が心の底から疑問でならないチモクに言われてセツキの顔はさらに赤くなる。完熟林檎だな、とかサイが思っていると、セツキが縋るような目で見てきた。


 視線で「助けてください」と訴えている。


 サイはなぜセツキともあろう者が自分に助けを求めてくるのか不可解ながらもなんか、状況的になんとなくセツキが可哀想なので助け船をだすことにした。


「なにがなにやらだがとりあえず客なのだろう? なれば茶の一杯淹れようか?」


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