なんの儀式ですか?


「ミツハ、まずは少量で様子見を」


 サイとミツハの目があう。と、同時にジグスエントの声が聞こえてきた。なにか意味のわからないことを言っている。少量で様子見ってなにを? が、答はサイの首筋に突き刺さってきた。ミツハの鋭い牙がサイの柔肌を破る。


 焼き鏝を当てられたような痛みが一瞬ほどあり、痛みが去ったあと、なにか冷たい液体が牙の先から体内に注入されたのがわかった。突然のことにサイはまたたく。


 いきなり噛まれたことも驚いたが、訊かなくてもわかる。蛇の毒液、と。


 冷たい液体の温度が体内に廻っている気がして気味が悪い。すると、くらり、と目の前が、景色が歪んだ。眼前にいるジグスエントがぐにゃと曲がっていき渦巻くように色がぐちゃりとなる気持ち悪さにサイが目を瞑ったと同時、ミツハの牙が抜けた。


 そして、ミツハが離れていくのが感じられるのと同時にジグスエントの、ひとの気配が近づいてきたのがわかってサイは気持ち悪さを振り払うのとそばに寄ってくる者をどけようと手首を戒めている枷を壁から剝がし、もとい壊そうとした。


 瞬間、昨日味わった電流が全身に襲い、脳髄に響き渡って陸にあげられた魚のように体が痙攣した。大きく跳ねる体。その体の動きでさらに電流が追加される。


「可哀想に。痛いですね?」


「あ、ぁ、ア……」


「でも大丈夫。あなたがわたくしのモノになれば枷も電流もミツハの毒も必要なくなる」


 サイに優しく話しかけながら女への仕置き電流が終わるのを待ってジグスエントはサイの頬に手を触れ、優しく撫でた。そして、ミツハが噛んで血が流れている牙痕にぬる、と自らの舌を這わせた。サイの体が気味悪さにびくっと震える。


 ジグスエントはサイの首筋に開けられたふたつの牙痕から流れていく血を丁寧に舐めて綺麗にし、そのまま流れるようにサイの唇を塞いだ。


 くぐもったサイの抗議を無視して、昨日と同じ、もしくは以上に激しく女戦士を求めるオルボウル王は相手が純潔の乙女である、と自覚しても手加減しない。


 舌を無理矢理絡め、自分の口に引っ張り込んで甘噛みし、可愛がり、これこそ快楽なのだと教え込みつつ、自分も楽しむ。卑猥な水音にサイの顔が赤くなる。目尻に浮かぶ透明な雫。苦しくて、息が続かなくて、サイは自らの意思とは関係なく涙を零しかけている。


 これがまた煽情的で辛抱堪らない、とばかりジグスエントはサイの体に触れようとしたが、寸前のところで理性に止められる。あまり一気に教えるのは無理強いがすぎる。


「ぶは、けほっ、ごほっ、はーっはー……」


「ん。あなたの血に、口づけの甘露。ああ、この魅惑の味がわたくしの理性を飛ばそうとする。今までにこんなにも愛おしく、恋しく、手に入れたいと思った女性はあなたがはじめてですよ、サイ。なんと惜しい。傭兵職などと、ああいえ、この際身分は関係ない」


 ジグスエントがやっと解放してくれたのでサイは呼吸に喘ぐが、男はサイの味とサイとの口づけに陶酔したような表情でサイへの愛を謳っている。はじめてここほどの衝動を、欲しいという衝動を与えた女性だ、とサイを褒め称えた。


 サイの職、身分をなにか惜しんでいるようだが、サイとしてはんなもんどうでもいい。


 とにかく今、猛烈に口の中をすすぎたい気持ちでいっぱいだ。ついでに風呂に入って舐められた場所を徹底的に洗いたい。洗ったあとは包帯を巻いておけば悪夢にお別れ。


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