みんなで朝餉


「ココリエ様、しゃんとしてください」


「ん、うう……ぐぅ」


 御目通りの翌朝。朝の一番だというのにココリエは叱られまくっていた。理由は簡単。朝餉を前に船を漕いでいるからだ。ココリエがうつらとしてこっくりする度にセツキの一喝が飛ぶ。飛ぶが、眠気には勝てずココリエは茶碗を持ったままうとうと。


 これにはさすがのセツキもキレる。


 ――ゴチっ!


「んごっ?」


「んご、ではなく起きなさい」


「あい、起きへあず」


「……まったく、夜更かしなどするからそうなるのです。で、サイ、なぜあなたは平気なのですか? あなたも寝た時間などほんの少しだった筈でしょう?」


「別に。これくらいは私の普通だ」


「体を壊しますよ」


「夜行性など慣れである」


 いや、そういう問題じゃなくて、と思ったがセツキは思うだけに留めてため息を吐き、再び船をこっくりうとうとしている王子の肩を強めにゆさゆさする。


 このまま放っておいたら朝餉の膳に突っ伏してしまいかねない。そうなったら目が覚めるかもしれないが、王子としては醜態をさらしてしまうので断固阻止すべきだ。


 セツキがココリエの醜態ブロックに忙しくしている間、ずっとルィルシエはぶすっとしていた。ココリエが箸を片手に目をこすっているのをじとっと睨み、不機嫌でむすっくれている。サイは面倒臭いので構わないよう努めているのだが、ルィルシエはサイを気遣わしげにちらり。


 だが、ちらちらされてもサイは無反応気づきません、な態度を貫く。サイの態度にルィルシエはもっとむすっとしたがサイはもちろん、部屋に集まっている他の男も無駄に厄介を抱えない為につつかず、王女を放置した。ルィルシエはだが、部屋中の総意になんだか謎のにっこり。


「サイ、お兄様への罰はいかように?」


「あ?」


「ですから、お兄様に罰を与えましょう」


「脳が沸騰したか、蟲でも湧いたか?」


「サイ、食事時に気色悪ぃこと言うなよ」


 気色悪い、と言いながらケンゴクは用意されている櫃からご飯のおかわりを盛る。気色悪い話題がでようと食欲は減退しないのか、ケンゴクはいつも以上に食べている。


 そんなケンゴクを気にせず、むしろいつものことなのでどうでもいいサイはちまちまと食事をつつき、嫌いなものをサイの膳に移す試みをしてくる王女の箸を撃退する。


「サイ、わたくしどうしてもこれは」


「そんなことだからちまいのだ」


「なにがっなにが小さいとっ!?」


「三つしか違わぬのに己は短足の上、背が小さい。私との身長差がわからぬのか?」


「……」


 ルィルシエは己のしていた勘違い、そしてなによりサイの言語暴力両方で落ち込んだ。


 いつもなにかと勝手に、一方的に比べてしまう胸部の膨らみについて言われていると思ったのにまさかの変化球でした。身長の低さが狙われるとは思わなかった。


 たしかにサイと比べられるとルィルシエはちいちゃい。きょうだい、というより親子?


 ウッペの城下町フォロでもたまーに勘違いされる。新しい奥で継母殿だろうか、と。


 ファバル様が、長年アザミの君以外に嫁は要らぬと言い続けていた王が新しく室を迎えたのか、とか、外国娘なんて大胆なとかいろいろと噂されたが、その噂はいつの間にか立ち消えていた。多分おそらく間違いなく名誉棄損だ、とセツキが怒ったのだ。


 そういうことだと思う。だって、サイが切れた茶葉を買いにいった時、町の娘らが盛んにお喋りしていた。セツキ様が言うならうんたらかんたら言っていた。


 だから、セツキが変な噂の火消しをした。と見るのが普通の考えだ。セツキらしいといえばらしい。本当にお堅くて王族の名誉を守るのに尽力する、いいおとこだ。


「今後の予定は?」


 身長云々でルィルシエがおとなしく、もそもそと静かに嫌いなものも一生懸命食べはじめたのでサイは話題を振って空気を一転させようとする。一番に乗ってくれたのはもちろんセツキ。男はココリエがなんとか危なげながらも食事をはじめたのでサイの振ってきた話題に乗っかる。


「本日は自由行動ですが、夕には荷づくりをして夜の間に帝都を発ちます」


「夜動くのか?」


「関所代が浮きますので」


「夜間割引?」


「帝都周辺交通を円滑にした分、引いてくれるだけで、どの関でもではありませんのでお間違えのないように」


 ふーん。セツキの説明にサイは簡単に納得して食事を終えた。少しずつ残しているのを見てルィルシエがサイこそ残している、とつつきかけたが、セツキが睨んできたので食事に戻った。おそらく食事の時はお喋りしない、はしたないと言いたいのだ。


 ……言えばいいのに。と思いながらルィルシエは完食して茶をずずずーと、すする。


 そして王女はまた笑顔になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る