青少年のお話


「なんかすっごーー、く無愛想なんだね」


「すまん。根はいいし素直なんだが、こうしていなければ生きてこられなかったのだ」


「? それってなに? 親なし?」


「……なら、よかったかもしれぬ。いっそ」


 そう。いっそ、親がいなければ、その方が数倍よかったのかもしれない。


 サイと妹は、だったらもう少し違う道があったかもしれない。いない者は殺しようがない。それを言うと、サイはひとりだったら、最初から孤独だったらどんなによかっただろうか。そうすれば妹を目の前で殺される不幸もなかったのに。仇討ちに父を殺すことも、なかったのに。


 だが、ひとりぼっちで世界は成立しない。


 誰かと出会うからこそ世界があるのだ。


 それをわかってほしい。けれど、サイは、彼女の傷は、あまりにも残酷すぎて凄惨な痕にすらなっていない傷口なのだ、ということにも理解を示している。


 深く広すぎてどう手を当ててやればいいのかさえわからないサイの傷に不用意で触るのは憐れだ。ひょんなことで新しく傷をつくりかねない。怒りに触れるかもしれない。しかし、放っておくことはできない。なぜならばそう、だって、ココリエにとってサイ、彼女は大切な――。


 それがなにか、――に入る言葉をココリエは知らない。セツキ辺りならば知らなくていいとか、知ったところでどうでもいいし、王子であるココリエにサイのことなど関係ない、とか言いそうだ。ココリエは王子。サイは傭兵。ふたりは近づくことなどない。遠い関係でしかない。


 わかっている。けど、理屈だけじゃ片づかない。だから、苦しい。だから、もがく。そして沈んでいく。わかっているのに、どうしてわざに溺死の道に進むのか。


「ココがそこまで気にするなんて、ね」


「ん?」


「いや、前までなら、女の子なんて前にしたら卒倒しかねない感じだったじゃん? それを気遣って、思いやったりなんてしてさ、成長したのかなーって」


 ココリエが自らの中にある不可解さに首を傾げているとナフィツが心底不思議そうに呟いた。ココリエがここまで女の子を気にかけるなんて、と。ココリエは彼が発する声の芯にからかいを聞いて耳まで赤くした。


 ココリエがまだ幼い頃はナフィツもよく遊びに来ていた。その時からずっと知っている親友だから彼はココリエの女性苦手も当然知っている。いつからか、彼がウッペに訪問する頻度や滞在期間が減り、最近では来なくなったので久しぶりの再会。なのに、からかってきやがった。


「そんな調子では童貞卒業は遠いですな~」


「う、うるさいっ下品だぞ、ナフィ!」


「なーにさ、男は筆おろし、女は水揚げ、こいつはいつか通る道だろ? え、なに? 実はあのお姉さんと一発決める気だった? ひゅ~、あのおっかない歳上に面倒見てもらいたいってかー? ココってば結構純情ぶってそういう趣向がお好みな」


「ば、ばばバカっ! そんなわけあるか! 昼からなにを言っているんだ、お前は。あとそれに歳上じゃないしっ彼女は余たちよりふたつ下だぞ。まだ」


「え? 十五? 老け」


「……ナフィ?」


「うわ、怖……。ココ、本気ギレですか?」


 じゃれあっているふたりの王子。サイは聞こえないフリを貫く。あと、ナフィツの補佐役と思われる老人がしきりに目配せしてくるのも無視しておく。おそらく側近同士で話をしたい、とかとにかく面倒臭そうなので放置プレイおっけーしておいた。


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