愛告白続き続いて
「サイ、強かで美しいお前が好きだ」
「私は己など嫌いだ」
「はは。惚れさせてみせるさ」
「キモい。超絶気持ち悪い」
ボロクソに言ってくるサイにユイトキは笑っている。
なに、こいつ、変態? とサイが思ってユイトキをよく見てみる。なかなかに整った顔立ちをしている。甘い思考からしてユイトキの本職は百姓。田舎の農業従事者にしては綺麗に整った顔をしている。が、いつもウッペの城で超級の美形ばかり見ているので「お?」とかはない。
城どころかウッペ国一の美形というか絶世の美人であるセツキ。野郎臭いが彫の深い結構整った顔のケンゴクに王族たちも綺麗な顔ばかりだ。ココリエは儚げ美人だが、ファバルはわりと男らしい美形である。ダンディな男の渋さがある、というのか、格好いいおっさんなのだ。
改めてユイトキを見る。短く刈り込まれた鳶色の髪。セツキのより茶が強い黒瞳。田舎の国で美形だろうとサイは興味ない。男女間にある恋だの愛だのどうでもいい。
「いい加減放せ」
「ああ、すまぬ。つい」
つい、ついってなんだ。サイの瞳に疑問が揺れる。綺麗な銀色の瞳に躍る感情はとても素直でこどものよう。だから余計にユイトキはサイに興味が湧き、惹かれた。
もっと知りたいと願った。だから触れていたかった。もっともっと温度を共有したかった。
そして、近いところで心からわかりあえたらいいなと思った。サイは海外で活躍していて戦国に渡ってきた戦士。この乱世の戦に通じているとは思えないが、支えあうことができれば、と希望を抱いてユイトキはサイを放した。女はあからさまに安堵している。隠そうともしない。
美しい女は心からほっとして腕をさすっている。肌は粟立っているので、ひとに触れられることに慣れていない。なんでもないことだが、サイの仕草が異常に可愛くて愛おしいユイトキの悪戯心がまた触れてみたいと思ったが、女は到底許さない、それこそ嫌われるかもしれない。
オトドリ集落で一番ご高齢たる集落長の老婆がいつも言っていた。恋愛は駆け引きであり、計算であり、勝負だ、と。聞いた当時は元服したばかりでまだよく愛や恋がわかっていなかったがそれも大人になるにつれてだんだんと理解できてきた。ひととひとの関わりは難しかった。
「サイ、愛しているぞ。考えてみてくれ」
「なにをか」
「某と所帯を持たないか? 幸せにするよう最大限努力する。及ばぬ時も命捧げて努めるから」
「そのようなこと、軽々しく言うな、バカ垂れ。脳味噌がヘリウムでできているのか、己は」
「へり……?」
「うむ。空気よりも軽いガス、気体のことである」
「……。お前、見た目に違って口が悪いな。好きだが」
おえぇ、こいつマジもんの変態か? と、サイはついユイトキにぶつけそうになったが我慢。
センジュの先を、次の手を押さえ、追い返す為の情報を聞きだせればぼろ儲けだ。その為にひとが持っている好きの感情を利用するのは気が引けるが、この際無視だ。
そもそもユイトキの片思いでしかない。サイが気にかけることではない。彼がサイの特別になることなどない。どんなに好きだ、と愛の言葉を重ねられたとしても覆らない気持ち。サイはもう誰かを愛することができない。妹を亡くした瞬間、サイの愛は粉々になり消滅している。
深く、深く傷つきずっと誰にも顧みられることのなかったサイの傷は限界を超えて開き切り、ぱっくり割れたそこから血を噴き続けている。虚無な言葉など届かない。傷が癒えない限り、愛は常に流れて失われていく。誰も助けられない。誰にも救えない。無限の愛でも、ない限り。
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