突然の……
「お前は強いな」
「強ければよかった。弱いからこんな様なのだ」
弱かったからサイは最愛を喪った。
あまりの激痛に死にそうだった。なのに、いつしか涙は止まり、変化した変わりない日々を歩みはじめていた。
実家から逃げだして四年。ずっと情報屋をごっこ程度でこなして生活を保っていたが生きることを喜び、おかえりなさいを言ってくれる妹を喪ってサイは自暴自棄となり、より危険な道に踏み入ってもう帰れない。もう、あとに戻ることはならない。サイは、闇に堕ちすぎていた。
そして、闇の深きにはまってしまったが為にサイの根本は闇だ。それでも光だった。そのことはたったひとりがきちんと知ってくれている。光当人のサイは、知らない。
知ってもらっていることを知らないサイは孤独なままだと思い込み、誰かの手を拒み続ける。
「なあ、サイ」
「なにか」
「ちょっと相談だが、その……好いてもよいか?」
「……突然に脳が沸騰したか?」
本当に突然、ユイトキは突拍子もないことを言いはじめたのでサイは当然の突っ込みを返す。
唐突に好いてもいいか、などと訊かれると思わなかったサイは内心の動揺を瞳に揺らしていたがユイトキは気づかずに早口で先を語っていく。男の顔も耳も真っ赤だ。
「自分でもどうかしている、と思う」
「では、さっさと外れた螺子を留め直せ」
「正直な気持ちだ。どうしてか、わからない。一目惚れなど陳腐な話ではある。でも、好きだ」
「当たりどころが悪かったのか?」
ユイトキの突然真剣な告白にサイは変な言葉。どうやら出会い頭で殴った時に当たりどころが相当悪かった、という考えにいたった臭い。まあ、普通の現実逃避だ。
だが、現実逃避である以上は逃避であって現実は残酷な様をしているもの。わかってはいるが事態についていけないサイに選択肢とかはない。逃げの一手である。
「こんなに愛しいという気持ちははじめてだ」
「妄言は適当にせよ。さもなくば私が螺子を留め直すぞ拳骨で。言っておくが命は保証しない」
うぉ、怖ぇ。螺子を留め直してくれるとは親切でいらっしゃるが、方法と保証がアレすぎる。
生存保証しないっていったいどんだけのバカ力で殴る気でいらっしゃるのか。しかし、サイは物騒なことを言っているわりに即行動へは移さない。が、女は考える。このまま放置しておいては取り返しのつかないことになりそうな悪寒がするのはたしか。だが、はて、どうすれば?
「そうか、わかった!」
「頭の螺子の留め方を思いだしたか?」
無表情のサイが繰りだす嫌みにユイトキはしかし綻んだ表情。サイはユイトキの謎にイミフ。
なぜに嫌みを言われてこんな表情をしているのか意味わからんサイは比較物として思いだしたセツキの苦々しい顔を記憶に見てユイトキの態度にことさらイミフ。
「サイ、お前はどうしてか守ってやりたくなるのだ」
「守護も保護も庇護もなにも要らぬ」
「そう、一見だけでは守りなど要らぬように見える。だがお前はとてもか弱く、儚い乙女だ」
「誤認識も甚だしい。目が汚染されているから入れ替えるか綺麗に千回ばかり洗浄しろ、阿呆」
千回も洗ったら逆に目の機能に不具合がでてきそうな気がするがそんな突っ込みは誰もしない。この空気で、サイの苛立ちに突っ込める勇者はこの世に存在しない。
いたとしてもその方は残念なことに、次の瞬間、場面転換で土の下へといくことになられる。
なので、突っ込みは不在。ユイトキの意味不明な論にサイは無表情だがかなり戸惑っている。
戸惑っている。いきなりで意味がわからない。なにより久しく聞いていない愛情表現の言葉を耳にして困惑している。どうしていいのかわからない。今までサイに好きだ、と愛している、と言ってくれていたのはただひとり。血肉と魂をわけた双子の片割れ。が、ユイトキは他人だ。
他人が、人生という道に現れてちょっと搔き混ぜる程度の関係ないちょい役がどうしてサイへ好き、と愛を謳うのか、サイには欠片すらわからないし、理解できない。
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