悪魔の悪い夢


 赤い、雪が赤い。大嫌いな雪、大好きな雪。


 大嫌い、大好き、嫌い好き嫌い好き嫌い好き……。どっちでもあってどちらでもない気持ち。


 大嫌い――あのコを奪った色だから。


 大好き――それはあのコの色だから。


 どうしたらいいのか、今もまだ私はわからない。アレから六年経ったのに、体は確実に大人のものになりつつあるのにどうしてもわからない。どうして、わからない?


 整理できない想いで気持ち。


 どうしても受け入れられず、どうしていいのかもわからない私は迷っているのだ。あのコの死に際の言葉……。


「お役、に、立ててよ、ったです。……サイ、私の唯一最愛の、姉様……。どうか、幸せ、に」


 まだ年端もいかない少女の言葉。


 死にゆく自分のことより姉を慮る言葉は悲しい。


 だから、私はどうしていいのかわからない。幸福になっていいの? それとも私は地獄へ堕ちるべきか? 妹に、最愛の大切に死を与えてしまった罪は万死に値する大罪である。今、思い返してもくだらないことで私はあのコを、レンを喪ってしまった。救いようのない愚かさで。


「こんばんは、メリークリスマス」


 の言葉を鵜呑みにしてしまったことで私は愚かにも警戒を怠った。そして、致命的な隙を与えてしまった。嗚呼、あの日の咆哮が今も耳に残っている。


「心配したよ」


 銃の立てた轟音を覚えている。銃はたしか、ベレッタ八十四。一般的にも普及していた型のものだったと記憶している。誰でも護身用に持てるモデルであり、国家権力に殉ずる者にも付与されていた筈。そこら辺は私よりもあの武器狂いの阿呆に訊いた方が詳しく解説があるだろ。


 まあ、話が若干どころかかなり長くなるのでよほど暇でなければ遠慮するが。マクネンジェの武器解説など。そういえば得物を新調しないか、と誘いの文がきていたな。


 忙しかったので無視していた。まあ、マクネンジェにしてみれば私ほど回転率の悪い客もいないそうだが。銃を得物にしていないので銃弾を使わないだけ購入物が減る。


 愛用していたナイフもアレの独自ルートで手に入れた業物だったが、基本的に刃の研ぎ直しも自分でしていたから武器商人にとってはあまりいい金蔓ではなかった。


「地獄へいけ。僕の醜い悪魔」


 忘れたい。あいつの言葉なんて。覚えていなくてはならない。あの憎い、やつの言葉を。結果としてレンを殺したのはあいつだから。私はアレを憎む。憎み続けるの。


 だって、どうしても許せない。


 でも、それは逃避であるのもわかっている。


 だって、だって、だって、そう、わかっているの。あのコを殺したのは、レンを死なせてしまったのは……――。


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