ひょっとしてだが……?
「だいたいの者が五属性をすべてと光闇のどちらかを持って生まれるのだが、当然強弱がつく」
「……。なるほど。己の強きを研いて特化するのか」
「そういうことだ。カザオニの名は風を
「ん?」
「いや、なんでもない。とりあえずどうする、サイ?」
「なにがか」
「雇われてくれるか? 寝食小遣いくらいはだすが」
ココリエの持ちだした話にサイは瞳を揺らす。雇ってくれるというのはそれで給金や食い扶持に寝床がつくのはありがたいが、戦を控えているこの国で生きていくのは危険が伴う。が、かといってサイにいくあてはない。だからもう、ほとんど仕方なく結論はひとつに固定される。
「厄介になろう」
「……そうか。では、よろしくしてくれ」
「それはない」
ココリエの愛想いい言葉にサイは無愛想で返した。よろしくなどしない、と言った女は欠伸。
もう眠たくて限界に到達しそうなサイがココリエを見ると青年はサイの無愛想に笑っていた。
見ていて心が洗われるような笑み。向けられることのない笑みは遠い昔に失くした。無力さで、愚かしさで、そして果てない弱さが為に亡くして失くしてしまった。
「サイ、もしかして、下のきょうだいがいるか?」
「……。
「いや、なんとなく。ルィルに対する態度が余と違うのもそうだし、なんだか慣れていて、な?」
「妹が、いた。双子の、血肉と魂をわけた、最愛が」
「……いた、か」
「うむ」
サイの言いまわしだけでココリエは察した。サイの最愛の妹、大切な双子の片割れはもうこの世にいない。どうしていなくなったのか、ココリエは訊かなかった。
きっとサイは答える。そして、自らの剝きだしになっている傷を抉る。なんの躊躇もなく、自分を傷つける。恐ろしく強靭で憐れな心をしているサイは悲しかった。
だが、サイは自らを憐れに思っていない。ひとは弱い生き物だ。世界で一番可哀想なのは自分だ、と思い込む輩というのは結構いるものだ。なのに、サイは違う。
本当の意味で自立している。ちょっとどうかと思うほど常識はないが、それでも大人だった。
自分をしっかりと持っている姿は憧憬を抱くに充分。
「そのなんとかについて教えてもらうことは可能か?」
「もちろんだ。むしろ知ってもらわねば
「足手まといになるのはゴメンだ」
「そうか。向上心が豊かなのだな、サイ」
「そうでもない。やらねば死ぬからやるだけだ」
「あはは。ひとが戦ったり、自らを鍛えるのはだいたいそういう理由からだ。大切なものを守りたいその心から意欲が起こるのだよ。サイが守りたいのは」
「半分強迫観念だがあのコがくれた、命だからな」
サイの悲しい告白にココリエはやはり悲しくなったが深くなにかを言うことはしないでおく。
サイが踏み込んでもいい、と言ってくれる日がいつか来ることを願っておくことにした。まだ、サイに踏み込むのは憚られる。サイも、拒むだろう。堅いのは言葉だけではない筈だから。いつか、腹を割って話せるようになる日が来ることを願っておくココリエはサイを案内する。
崖に沿って歩くと階段が現れ、そこをのぼっていってココリエについていくサイはそっと嘆息する。意味のわからない現象に出会ったが、一応の寝食は確保できたので総合としてよしとしておくことにした。それ以上考えるにはマジでもう睡眠が必要だったから。本当に、疲れた。
城に戻ったサイはファバルからの礼も適当に流して案内された部屋で即行眠ったのでした。
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