悪魔さんは常識が欠けている
「えー、とりあえず風呂に」
「あ?」
「ち、ちちち違っ、一緒じゃない! 別だ、別っ別! 女湯がちゃんとあるからその、あの、ルィルと」
「……ふん」
真っ赤な顔でわたわた言葉を返しているココリエをしばらく睨んでいたサイだが、最終的には鼻を鳴らしてそっぽを向いた。ココリエはほっとしている。顔はまだ赤い。
ただ赤い顔でもココリエはサイの顔をじっと見ている。恍惚と見惚れるように見入っている。
まあ、気持ちはわからなくもないな、と傍で見ているセツキとルィルシエは理解を示した。
サイは本当にとても綺麗な顔をしている。歳の頃もココリエに近そうだし、綺麗な異性に興味を持つのは……。
「お兄様、サイさんのことは大丈夫なのですか?」
「え?」
「いえ、いつもルィル以外の女性を見るのも、視線がさだまっていらっしゃいませんでしたから」
「あ、いや、さて、どうだろう……?」
「野郎臭くて悪いな」
「うっ。それはその、勘違いしたのはすまなかった。すさまじく失礼だったと反省しているのでどうか許してもらえるとありがたいのだが。えと、ルィルのこともあるし」
サイはココリエの謎の言葉にはてな。ルィルシエのことがあるっていうのはいったいなんだ。
なぜルィルシエがでてくるのかサイは心からイミフ。
サイの様子にココリエは困ったように笑った。が、まあ困っているのはサイの方なんだけど。
「町でルィルを助けてくれただろう? そのことで父に便宜を図ってみようか、と思ってな」
「便器?」
「……そなた、品性という言葉を知っているか?」
「それは生きる上で必需品か? 絶対必携か?」
「……えっと、どうも一般常識ではかれないようだな」
諦めた。ココリエはサイに下品だぞ、というのを教えることを諦めて乾いた笑いを浮かべる。
ココリエのそばではセツキも頭を抱えている。女性にあるまじき下品な発言をどうしたものかまじめに悩んでいる様子。無駄なことをしているな、とサイは思った。
サイの
ココリエのようにサイの特性ということにして諦めればいいのに。無意味に苦悩するとは物好きなことだ。なんて他人事のように考えているサイの袖が引かれる。
見ると、ルィルシエがサイの服を引っ張っていた。
「なにか」
「湯殿へ案内しますわ」
「別に蒸し布巾などでもいいのだが」
「ダメです。着替えないと変なひとですもの。ルィルの着物、寸法違いのものがいくつかありますから、お貸ししますので着替えてください。サイさ」
「サイでいい。私に敬称などつけるな。キモい」
サイに敬称をつけかけたルィルシエの言葉を遮ってサイははっきり要望した。サイの変わった要望にルィルシエはきょとんとしていたが、やがてにっこり笑って頷いた。
サイはルィルシエの頷きを見てもうどうでもいいと思っているの丸わかりにため息を吐いて少女のあとについていった。残された男ふたりは顔を見あわせ、ひとつ頷く。
「間者どうこうではなさそうですね」
「ああ、だが、かなり素でボケるな」
「はい。ですが、どちらかというと天然ですね、アレ」
「うーむ、妙なものを拾ってしまったが、なぁ。よい方向に進んでくれそうではあると思うぞ?」
「まあ、アレだけボケていればそうでしょう。思慮は深いのか浅いのか知れませんが、悪ではない上不思議なことです。この戦国にアレほど澄んだ魂がある、というのが」
「やはり、セツキもそう思うか? 余もあんな澄んだ魂の持ち主ははじめて見た。変だな。異常に清浄でこちらの魂まで清められそうな不思議な心地すらある」
男ふたりで話しながら城を見上げる。サイが入った、ルィルシエに連れられて入った城は彼女にとって住まいとなるか獄となるか決める為、ふたりも城に入っていった。
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