なんだ、これ……?


「……いよいよもって夢でも見ているようだ」


「なぜだ?」


「こんなもの現実で見るか、ボケ」


 暴言が混じったが、サイは本当に見ているものが夢の産物ではないかと思って目を細める。


 サイの目の前には大きな木造の建物が堂々とある。そんなもの、サイは今までの人生で見たことがないし、別に見て楽しいとも思わないので興味は皆無以下。


 興味はない。ないのだが、得意先のじじい様のご趣味が目の前にあるの模型作成だったので何度か手伝わされた。拒否りたかったがいやなら豚箱だ、とクソ最低に脅されたので渋々のいやいやでいくつか組み立ててやったことがある。老眼で細かいものが見えないらしい。


 じゃあ、つくるな。と何度も突っ込んだが、アレこそ華麗にスルーされた。あのクソ根性原子崩壊じじいはいつか殺してやろうと本気で思っている人間のひとりである。


「夢に見ているのか?」


「見たらダイナマイトで爆破してやる」


「だいなし?」


「ダイナマイト、爆弾だ」


「……えー、持っていない、な?」


 なぜダイナマイトを知らないのか、よくわからないが横文字がダメならばと言い直したサイ。


 ココリエは理解するにいたったのか、青い顔をしてサイによくわからないことを訊いてきた。


 サイは再三となるが欠伸。


「爆薬など私の美学に反する」


「なにの美学だ?」


「殺人」


 サイの言からサイが爆弾を持っていないと知ったココリエは安心しかけて顔をひきつらせた。


 綺麗な整った顔がひくひくしているのはそう滅多に見られるものではないが、サイはココリエの顔がひきつろうがどうしようがどうでもいい。サクッと無視した。


 サイの殺人は純粋な人体破壊であり、生命の停止。


 ただ殺せばいいというのとは違う。そして、だからと見立てではない。サイは野蛮だが、残酷だが、それでも普通に生命へ敬意を払っている。だから、遊ばない。


「そなた、なにをして生きてきたのだ?」


「殺しだが文句でもあるか」


「……えぇと、ずいぶん堂々と言うな、そなた。それとも物騒を言っている自覚がないのか?」


 ココリエの質問をサイは無視した。もちろん自覚して言っている。自覚がないなど脳の腐敗。


 無言で、無視することで青年に「己はバカか?」と訊いているサイ。ココリエの後ろでセツキが頭痛を堪える表情をしている。ココリエの判断に任せたことを悔いているっぽいのだが、なにもかも遅い。目の前にある建造物、城。そこまでご案内したあとなのでもういろいろ……。


 いろいろと手遅れな感じになってしまったところで玄関に到着した。綺麗に研きあげられているそこはサイが拠点にしている空き家より数倍は広い。驚くくらい。


 あと出迎えの者がいることにも驚いた。女が数名道をつくって男たちとサイを迎えてくれた。


 実際サイは迎えられていないが、ココリエと一緒にいたのでついでで出迎えられたのだ。女たちは手に手に布を持っている。それを男たちが受け取って次々玄関をくぐっていくのをサイはココリエの隣でぼんやり見ている。ココリエのそばにはセツキとケンゴク、ルィルシエの姿。


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