救世記

@taroutarou0

白王物語

第一話 白王生誕

 世界は四五層から成り立ち、上から順に神の国、幻想郷、宇宙、冥界、それから地底によって構成されておりました。様々な生命があり、弱いもの強いものが混濁しているのは宇宙と地底だけで、その中でも、宇宙には様々な神が住んでおりました。人間を生み出したのはこの神々ですが、この神々を生んだのは宇宙より一つ上、幻想郷に住まう生命の副神カイ・ダーネスであり、生命の副神カイ・ダーネスを生んだのは世界に自分の体を貸し与える最高神、原神ガフです。


 あるときのことです。この宇宙にぽっかりと大きな穴が空きました。穴はエネルギーの微妙な揺らぎによって生れた穴です。その穴に原神ガフが質量を与えると、その穴はぐるぐると渦を巻き、周囲のエネルギーを吸い込み続けました。それから数十年と経ち、突如として渦は放射状に割れ、中に鎮座していた原神ガフの質量がふしぎな形となって、宇宙の中心に生まれ落ちました。彼は様々な力を吸うこと久しかったために、生れたばかりから大変強力な神通力と法力を持ち、またその力で脳を造って知性を獲得しました。脳は触手を生やして宇宙を漂いながら、次第に肉と骨とをつけ始めました。一つ一つが錦糸のように白く薄い毛髪、整った鼻梁、大きな口、四尺の小柄な肉体。やがてその肉体を、宇宙の極寒を耐えしのぐために、激しい烈火が包みました。彼は炎に包まれながらゆっくりと移動し、炎はやがて彼の瞳に収まりました。この世のものとは思えない姿容、燃える瞳、白髪。


 身体が完成した彼は動きを止めると、その大きな口で叫びます。「我は五行の王者、陰陽一切を悉く知る者、三才を掌る帝なり。神々よ、我にこの広大にして深遠なる宇宙を引き渡せ」その凄まじい叫びは宇宙中に響き渡り、存在しない宇宙の縁を揺らし幻想郷と冥界にまでその衝撃波は及んで、神々ははじめての地震に大いに戸惑いました。


 彼の叫びを聞いた武神 タク=ド=バールは、手頃な惑星に降り立って思うさま走り回り、秀でた運動能力を試している彼を見、五万五千の軍勢を引き連れて彼の元へ向かいました。その頃、彼は降り立った小さな惑星に、岩で出来た神殿を造り、その中心の玉座に座って、自分の毛髪を神通力で織った薄物のような簾を作ります。神殿の前にたどり着いた武神は兵士たちを一旦止め、彼を説得しようと神殿の中に入りますが、傲慢な彼は「我のためによう罷り出てわざわざ謁見してくれた。我は寛大だから、相見えてすぐに頭を垂れぬ非礼を赦してやろう」と告げます。


 タク=ド=バールはそのあまりの態度に怒り、「無彩の化物よ、今ここで討伐してくれる」と自慢の御剣を掲げます。この御剣は「神羅平静の剣」と呼ばれ、音、色、感触など全ての五感を奪い取り、相手を戦闘不能にする徳の高い神器でした。しかし、タク=ド=バールの言動に激怒した彼は「ありがたき我が御声を聞かなかったのか? 我の名は五行王者、陰陽之皇、三才掌帝のいずれかで呼べ!」と言い、獣のように嘯きます。神羅平静の剣はそれによって砕け、外に控えていた五万五千の軍勢の身体は木端微塵に粉砕してしまいます。タク=ド=バール自身も傷を負い、自分の武器庫に帰ってこの化物を捕縛できる神器「不滅羂索」を取ろうとしますが、惑星から一瞬で武器庫まで移動してきたふしぎな術を、なんと一見して会得してしまい、武器庫まで追ってきた五行王者は、彼を殴り飛ばすと、その不滅羂索を奪って逃亡しました。


 傲岸不遜、豪放磊落、武神を倒し軍勢を蹴散らし、天界を震わせた化物の話はまたたく間に神々の間に伝わり、彼を倒せば出世間違いなしとまで言われるようになりました。彼には、その特徴的な白髪から「白王」と言う名前が与えられました。


 白王は不滅羂索を盗み、別の惑星に瞬間移動をすると、その武器を試します。不滅羂索はその名の通り岩乗な羂索けんじゃく(※五色の縄、独鈷杵、環で作られた救世を象徴する縄)でしたが、彼が強く握って神通力を注ぐと、たちまち五色の縄は、五色の勾玉の連なりになり、独鈷杵はより鋭く、環はより大きくなりました。白王はその羂索を見、「これは我が手にした我の武器である。すでに不滅の力は消えたが、代わって我が五行の力、陰陽の理が刻まれている。従ってこの羂索を『帝之羂索』と改めよう」と言いました。羂索は彼の獰悪な心に逆らうように震えましたが、白王が更に強大な神通力で押さえつけると、羂索が震えを止め、彼に屈服しました。

 一方その頃、タク=ド=バールは仕えている悪神に謁見し、武器を奪われ兵を殺された失態を詫ます。悪神は百五十尺(※45メートル)の肉体を持ち、黒く硬い肌をし、額に第三の瞳を開いて、長く鋭い牙の並んだ口で善神に悪態をつくと、「白王などは闘争心に充ちた愚かな存在だから、一人でに戦いを挑んで一人でに自滅するに違いない。貴様より武に秀でた者に迎え撃たせれば良いではないか」と言った後、罰としてタク=ド=バールの身体を一万回鞭打ちました。タク=ド=バールは屈辱のために食いしばった歯が固まり、険しい表情のまま自身の武器庫に帰って、以降「不動武王」と名を変え、修練に明け暮れるようになりました。

 

 悪神の読み通り、白王は惑星で羂索の力を試すうちそれに飽きて、誰か他の神を打倒したいという欲求を覚えました。特に羂索の力が理解できるようになってからその欲求は募りました。羂索の重さは二万五◯◯◯斤(※15トン)で、一度振り回せば大地を砕き、その回転からは竜巻が生れ、また羂索の輪を何もない空中に引っ掛け手繰り寄せると、その場所に瞬間移動をすることが出来ました。

 やがて無聊に我慢のならなくなった白王は天に向って適当な官職を叫び続けました。百三十三人目に叫んだ名前、天山大官てんざんだいかんは実在した官職で、しかもその位に就いていた槌神・シャナ=イアラは悪神の部下の中でもことさら力の秀でた神として名が知れておりました。天山大官はたちどころに惑星に降り立つと、巨大な槌を振り下ろして惑星を砕きました。白王は羂索を使って惑星の欠片と欠片を飛び移り、天山大官に接近すると、羂索を伸ばして独鈷杵の尖端で刺し、さらに羂索で起こした竜巻で天界へ向って吹き飛ばしました。白王はそのまま天界に瞬間移動をし、天山へ逃げたシャナ=イアラを見つけると、天山を持ち上げて悪神へ投擲しました。悪神はシャナ=イアラごと山を握り潰すと、「恐れを知らぬ白い怪物よ。我に戦いを挑むのか?」と彼に向って呼び掛けます。槌神を一瞬のうちに倒したことで自信をつけた白王は、瞳の奥に燃え盛っていた炎を全身に広げると、羂索で起こした竜巻に乗って悪神の前に向かいました。まず白王は火のついた拳で悪神の鼻を殴りつけます。羂索を伸ばして独鈷杵で眼球を狙い、また叫び声の振動で悪神の身体を破壊しようとします。そんな白王の猛攻など蚊の差した程度だと嘲笑った悪神は、掌で彼を上から叩きつけました。白王は天界から地球に向って真っ逆さまに落ちていきました。

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