趣海坊天狗譚

作者 みりあむ

59

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★★★ Excellent!!!

落語を聞いているような軽妙な語り口の昔話…と思いきや、現代にも通じる人間世界のしがらみ、因習、不文律が、天狗の目線を通して浮かび上がります。
おそらく人間が口にしてはいけないことを、時に可笑しく、時に辛辣にぶった切る天狗の語りが面白い。視線を変えればこの世はなんと下らないことに縛られているものかと思わせます。
自分たちで作りだしたものに縛られ、縛られていることにも気づかずに「そういうもの」と慣れ切っている恐ろしさ。
疑問すら持たず、持たせてもらえず、すべて呑み込んで生きねばならない社会というもの。
それでも人の心の奥底にある、普遍的な想い。

俯瞰的で飄々とした文章の中に、鋭いところを的確に突き刺してくれる快感があります。あくまでもだらしない天狗像がとても魅力的で、それを付き人に従える旅医者も、ひとりの人間像を複雑に表していてこちらもまた魅力に溢れています。

とにかく沢山の方に読んで欲しい。けっして昔話ではないということが分かると思います。

★★★ Excellent!!!

本音をいえば、ちょっと、いやかなり愕然としてしまった。
末端とはいえ、物語を書く者だから。いかに自分が小手先で書いているか、いや別にいい加減に書いているわけでなく真面目なんだけど、だからこそ感じ入った、染み入った、そして恥じ入った、というべきか。けれど、それ以上に嬉しかったと思う。
怠け者の天狗、趣海坊。他の天狗に叱られ、お山に帰るためには人間を天狗にスカウトしろと突き付けられる。そして出会った医者の徳本、彼を立派な天狗にせんと、趣海坊は付き人となるが・・・・・・
柔らかな、軽妙な語り口調で民話や昔話の体裁をとっている。一方で資料や取材に裏打ちされた、当世の人々の生きようが率直に描かれている。
その上でゆっくり流れる物語の結末、趣海坊の言動、そして浅学にてあとがきでようよう知ったとある人物の正体に、泣けてしまった。ストレートな悲しみではなく、感情が昂ぶった時のそれ。
こういう物語に出会えるのは稀であり、奇跡であろう(実のところ、作者については前々から存じ上げていて、この奇跡の発現が遅くなったのは、私の怠慢なのだけれど)。
ので、せめてレビューを書かせてもらい、誰かにとっての奇跡の片棒を担がせてもらいたいと目論む。物語に出会うという奇跡を、貴方に。

★★★ Excellent!!!

 この物語は、天狗という「人の世」に縛られていない者の目を通して、人間の価値観やしがらみが、取るに足らないものだと突き付けて来ます。
 そうした視点を知った時、私たちはどんな反応を見せるのでしょう?
 もっとも楽になるのは、これを「自分には意味のないもの」として見て見ぬ振りをすることでしょう。
 そうしたい気持ちは分かります。私も、周囲のしがらみに縛られている一人ですもの。
 こうしたことから、離れて生きられる天狗。
 それに憧れますか? それとも、嫉妬しますか?
 私は…… やめておきます。
 それは、読んだ人が決めることだからです。
 一つ、知っていると物語に深みをもたらすと思うことは、天狗・趣海坊から誘われる「永田徳本」のこと。
 この人物が、伝えられている「永田徳本」と同一なのかは、読んでのお楽しみ。
 武田信玄の頃、甲斐の国に住んでいた永田徳本は、十六文の報酬のみで病の治療を施したと言われています。
 これらのことは、あとがきでも触れられていますから、そちらを先に読むのも面白いかも知れません。

★★★ Excellent!!!

天狗は多くを語らない。
しかし、その一言一言に含蓄がある。決して上から目線でもななめからでもない、本心、本質を突く言葉には、一切の妥協がない。

趣海坊の目を通して見た人間の姿や、趣海坊自身の心の動きが軽妙でなんとも愛らしく、ほんわかしたと思いきや……いい話です。

★★★ Excellent!!!

 さて、本作は山育ちの天狗が、人間界の不思議にせまるといった内容だが、読んでみると、途中から読者のほとんどは天狗の考えに共感し始めるのではないだろうか。
 それは、現代人が天狗に精神の高邁さが追いついたからではない。たまたま現代人と天狗の「これがわからない」のポイントが同じだっただけであり、天狗からしてみれば現代の人間も昔の人間も、たいして変わらない存在だろう。場合によっては、昔の人たちのほうが純朴だったと評するかもしれない。

★★★ Excellent!!!

金比羅天狗の眷族・趣海坊は、天狗に似合わぬチビで怠け者。お山のお世話を全くせずに怠けてばかりの彼に、偉い天狗達は業を煮やした。「天狗をやめて人間になるか、人間を天狗にしてみせろ」難題を出されて故郷を離れた趣海坊は、流れの医者に出会う。いずれ彼を天狗にする目的で付き人になった趣海坊にとって、人間の世界は、奇妙なことばかりだった。

天狗好きにはたまらないお話です。身分制度のある時代背景や、描かれる民俗も興味深い。何より、人とは違う趣海坊のものの見方やふるまいが、時に滑稽に、時に痛烈な批判を帯びて、人の胸に迫ります。

★★★ Excellent!!!

人間を一人、立派な天狗にするまで帰ることは許さないと山から追い出された天狗・趣海坊は流れの医師・永田徳本に出会う。徳本を天狗にしようと趣海坊は「天狗にならないか?」と勧誘するが――?

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この物語は時代小説でありながら現代的な語り口調で進む人間と天狗の友情を垣間見る物語です。
時代小説を読んだことのない方が時代小説入門として読むのにうってつけだと思われます。

この時代の蘊蓄、豆知識などもあるので興味のある方はぜひご一読を――!!

★★★ Excellent!!!

趣海坊という天狗は天狗の中でも怠け者でした。
あまりにも怠けてばかりいるために、ついに山から追い出されてしまいます。
人間を一人、立派な天狗に鍛え上げなければ山に戻ることは許さない。
そう言われてしまった趣海坊が渋々山を下り出会ったのは、旅医者徳本。
この男を天狗にしよう。そう思った趣海坊は徳本の付き人となったのです。


歴史ものを普段読まない身でも、当時のことを想像できる柔らかくて読みやすい文章。
文章に反して奥深い内容に、最後の方は一気に読み進めてしまいました。

山から下りた天狗から見た人の世は、天狗には意味が分からない事がたくさんあります。
趣海坊が何でだ。というたびに、本当になんでだろう。と考えてしまいました。

山をおりて人と関わったことで変わったこともあれば、変わらなかったこともあります。
ですが、お山で天狗たちが噂をしている姿を想像すると、あたたかな気持ちになります。
それだけで素敵なお話だった。そういうには十分だと思います。

★★★ Excellent!!!

とても、とても面白い。
まず魅力的なのは、趣海坊の人物造形。
さらに、物語の進行、一人ひとりの行動、込められたテーマ、さらには小道具まで、どこを切り取っても楽しめます。

明日、いつものように仕事に向かう私の目の前に、趣海坊が現れたら?
どうしましょうね。
私はたぶん、人間でいたいと願ってしまうのだと思います。

★★★ Excellent!!!

面白かったです、妖怪好きが言うのですから間違い御座いません。
昔話のような語り口調がすっと読め、ついつい続きが気になって仕方ありませんでした。また、実在した人物や部落差別という難しい問題が、見事に絡み合った素晴らしいお話だと思います。日本を代表する妖怪天狗のお話、一読されてみてはいかがでしょうか?