翌1400~1500 道場前にて
「一日で一年分でしたか?ということは半日でも半年分…」
「私も神造巨人戦の疲労を取る暇がない故に使わせてもらったが、あの程度の環境負荷であれば竜種にとってはさしたる負担にもならん。デメリットは踏み倒したようなものだな」
「テメェらはいいよな修行や休息の為にここ使えたんだからよ。俺なんか一年ひたすら工房として武器を作り続けたんだぞ発狂するかと思ったわ」
「とりあえず時間が無い時に無理矢理に時間を工面できる便利な空間っていうのはわかったよ…わたしは使いたくないなぁ」
ホテル『阿房宮』に隣接して建設されている施設の前で、三匹の竜と一人の人外が集まって何事か話をしていた。
言うまでもなく夕陽達と共に幾度もの戦いを勝ち抜いてきた歴戦の猛者。雷竜ヴェリテ、風刃竜シュライティア、真銀竜エヴレナ、そして妖魔アルだった。
そんな物騒極まりない強大な力を秘めた一団へと物怖じせず駆け寄ったのは小さな小さな白銀の少女。その鼻息は荒く、感情起伏の薄くともぷんすこと怒っていることだけは誰の目にも明らかだった。
「……アルっ!みつけた」
「げっ。白埜」
全身を白い包帯でぐるぐる巻きになったミイラのような姿のアルを見つけ、白埜が腕に飛びつくのを夕陽と幸とロマンティカは嘆息しながら眺めていた。
きょろきょろと忙しなくホテル内を動き回る白埜を見かけたのはほんの十分ほど前のことになる。その様子を見て思わず声を掛けたところによると、病室で寝ていたはずのアルの姿が少し目を離した隙に消えていて、今はその捜索中であるという。
そうしてその捜索に協力して海辺を探してみようという段階になって外に出てみれば、そこには見事ミイラ男の姿があった。
本来であればカルマータと同じく寝たきりでなければいけないほどの重傷者であるはずの男が、こんなところで立ち話に興じていたのだから彼を想う少女としては憤懣やるかたないのも頷けるところである。
「寝てろよアル。お前アホみたいに頑丈だからって治療一番後回しにされてんだから」
どうせ殺しても死なない男だし、と医療従事者や治癒に覚えのある者達からは意図的に順番を遅らされているこの現状。それだけこの男がこれまで多くの戦場で苛烈に暴れ回っていたことが周知されている何よりの証左となっていた。
言い換えれば、天兵団の長と同じくらい粗雑に扱われているということでもあるが、それも呆れるほどの肉体強度と生への執着を認められているが故なのだろう。
だが、それとこれとは話が別だ。現に今のアルは〝
つまりそれを用いねば今のアルは外を出歩くことすら困難ということ。それは白埜も血相を変えてホテル中を探し回る事態にもなろう。
「いや、だからここ使わせてもらおうと思ってきてみたらドラゴンズがいたもんでよ。思わず井戸端会議と洒落込んじまった」
井戸端会議と呼ぶにしては男女の比率が半々であることに疑問を覚えた夕陽であったが今重要なのはそこではないのでひとまず黙っておくことにする。
夕陽達が黙っていたのをいいことに、やや不満そうな表情で掴む杖の先を道場の扉へコンコンと突き込みながらアルが言う。
「だが使おうにもジジィの許可が無いとおいそれと使えないみたいじゃねェか。クッソが、俺に武具創らせた時は否応なくブチ込んだクセによ。何呑気に神様になってんだあのショタジジィは」
「かみさまー?」
「神様みたいに尊大な態度で、ってことだよ」
頭の上でロマンティカが不思議そうな声色で鸚鵡返しに口にしたのを聞いて即座に夕陽がそう返す。我ながら見事なフォローだったと感心するほどの対応速度だった。
日和であればまだしも、まさかアルまでが元帥の変化に気付いていたとは。伊達に種々様々な猛者と戦い続けてはいないということなのか。
そこで察してくれればまだよかったのだが、生憎と気付きもしなかったアルは夕陽の見当違いな解答に眉根を寄せて言及した。
「あ?違ェよ。あのジジィいつの間にか神性を」
「……いいからっ。アル、はやく戻って」
意図せずして真意に焦る夕陽ではなく本心からベッドへの帰還を求めている白埜の割り込みによってアルの言葉は遮られる。まだ何か言いたそうにしていた妖魔だが、世界で唯一逆らえない少女の責めるような視線に耐えかねてか「わかったって…」とぼやきながら手を引かれてホテルへと戻っていく。
「ふー…」
「夕陽?」
ポーカーフェイスで静かに安堵の息を漏らした夕陽に、真顔のヴェリテが、
「別に無理して隠そうとしなくとも良いですよ。もとより竜種の敏感な感覚器からしてみれば、人が人と違う気配を纏うようになれば嫌でもわかるものなので」
「然り。そしてその程度の違いで扱いを変えるほど、我らは狭量ではなく」
「わたしだって神さまだし!神竜だし!ねっ」
と続けてシュライティア、エヴレナの言で一気に脱力する。そうならそうともっと前の段階から言って欲しかった。
「…あー。そっすか…」
結局、あの場の全員が帰還時点で元帥閣下の変化には気付いていたということだ。なんとも侘しい一人相撲であったことに肩を落とす。
(思ったよりバレてるみたいです、米津さん……)
異世界の猛者達の鋭敏なる第六感を、果たしてあの元帥はどこまで見抜いているのか。
それを心配するだけ無用なことなのかもしれないと、若輩を自覚している夕陽は密かに自省するのだった。
「…?んー?」
この場の中で唯一その真相に辿り着けないでいるロマンティカだけが、妙な空気だけを察してまたしても小首を傾げるのだった。
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