第100話 4年
始業式の日から1週間が経った、9月の下旬。
あの日以来、時末さんのお姉さんから言われたことが、頭から離れない。
大成功した世界に残る、小さな失敗。
私の向かう未来の先にも、そんな結末が待っているのだろうか。
しかし、何かを犠牲にしないと大きなものを手に入れられないのが現実じゃないのか。できる子、優等生と呼ばれるために、時間も人間関係も犠牲にしてきた私が、間違っているのか。
今日は、なんとなく帰りたくなかったから、私の家の近くにある公園のベンチに座り、ぼんやりと目の前の風景を眺める。
涼しくはなってきたものの、まだ秋とは呼べる気温ではなく、微妙に暑さが残っているのを肌で感じる。
あれから、もう4年が経とうとしている。
あの季節がやって来るのが、毎年怖かった。
放課後。
臆病な同調が、彼に与えた傷の大きさ。
新人戦の朝。
迫る軽車両。
衝突する直前の、スローモーション。
それが、彼による過ち。
何か一つを思い出そうとすると、全ての情報が雪崩のように流れて来る。思い出したくないのに、誰かを責めたい、不幸に酔いしれたい気持ちが拍車をかける。
ただ、そのきっかけとなるものの前では、きっと怖気付いて自分の闇をさらけ出すことすらできない。出口のない胸中で延々と反射し続ける。
だから、その人物が、彼の姿が見えた時にはどうしていいか分からなかった。関わりたいようで、そうでないような気持ち。ひどく怯えているのが自覚できる。
彼と、目が合った。
「亀井さん…」
覚悟を決めて彼の名前を呼んだ、というより沈黙から逃れるために自然と声が出てきた。
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