第95話 最低女

「今度、ご飯でも行きませんか?」


メールを送った相手からの返信を待って2日が経つ。


私は、落胆した。当たり前だ、メールを送って何時間どころじゃなくて、日数単位で返信が来ないなんて完全に脈無しじゃないか。


時末さんと連絡先を交換してから1週間後に思い切ってメールをした。


あの時をずっと後悔している。どうして、あんなタイミングで聞いてしまったんだろう。まるで下心を見せているのと同じじゃないか。


バイトのない日の16時。窓から照りつける西日を浴びながらベッドに寝そべってスマホの画面を睨む。


夏休みの課題は、量があるだけに怯む生徒たちが何人もいるが、日頃からちゃんと勉強していれば、さほど難しい内容でもない。だから、ものの1週間程度で終わらせることが出来た。


それもあってか、私の夏休みはとっても退屈だった。


部活のある友達、私と同じくバイトをしたお金で旅行に行く友達。みんな予定があって忙しいからなかなか会えない。


とはいっても、最初から拒絶したのは私だ。高校に入ってから、ルックスと雰囲気だけで人が寄ってくる環境は、変わらない。でも、走れないことを誰にも知られたくないからわざわざ電車を使って遠くの学校を選んだし、体育の授業だって走るスポーツのある日は上手く仮病を使ってやり過ごす生活の中で、人と打ち解けたくなかった。


なるべく私のことは、誰にも知られたくない。男を騙した最低女。中学の時に陰でそういう噂が立っていることを知っていた。


打ち解けるわけにはいかないのだ。今の、知り合いと親友の間をキープしなければならない。


足を怪我した期待の新人。人の気持ちを踏みにじるクズ。それが明らかになって憐れまれるのも今の生活が崩壊するのも、たまらなく嫌だった。


それでも、あの人は知ってる。私がやったこと、遭った事故のことも全て。


聞きたいことは、山程あった。この前の電話の内容はなんだったのか、それが事実だったとして彼女と父親はどうなったのか、彼らをどう救ったのか、救おうとしたのか。


亀井さんは、何か特別な『能力』を持っているのではないのか。


そして、


あなたも。



17時。


テーブルの上のスマホが、身体を震わせて通知音を鳴らす。ベッドに寝そべったままの私は、期待した。身体を起こして文面を確認する。


『今日とかって、会えるかな?』


文面を何度も目でなぞった。

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