終章
第84話 音のない教室
「ファイトー!」
「しゃー! こーい!」
「へい! 出せ!」
夕日のオレンジ色に染められたグラウンドで、さっきまでは制服を着ていた生徒たちが、運動するには動きやすい格好をして懸命に体を動かしているのが、わざわざ確認しなくても分かる。
声が、遠く離れた場所にいても、しっかりと聞こえる。
自分以外は誰もいない、音のない教室。
足元にカバンを置いたまま、青い大学ノートと数学の教科書を取り出し、教科書の内容を空白の部分に書き込む。明日の授業までに解かなければいけない予習。発表形式のそれは、ついに私の番まで回ってきた。
部活に入ってないなら、家でゆっくりやればいいのに。
クラスで仲良くなった子たちからはよく言われるが、家に帰る暇もない。
帰ることを一度思い出すと、アレを忘れていないかと心配になり、カバンのジッパーを開けて中身を確認する。どうやら、忘れずに持って来ていたことにホッとした。
中には、服。グラウンドの彼らが着ているもののように、運動をする目的には決して用いられない服。それは、紺色をした、板前のような服。
ついでに、確認する。安全ピンのついた小さな長方形のネームプレート。それを時間になったら紺色の服に針を通す。
『樽本』と書かれたプレートも、忘れずに持って来ていることを確認して、ジッパーをゆっくり閉めた。
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