第41話 笑ってしまう

家の近くの河川敷まで歩いて、やっと意識が戻った。


あの、ニュースでしか観たことのないような破壊された現実感のない建物。


目視すら出来なかった、父親の死。



「ははっ、ははは…」


笑ってしまう。まさか、自分にこんなことが出来てしまうなんて。


人を、『呪い殺せる』なんて。


「っはははははははは…!」


空を仰ぐような形で、笑い声を漏らし切った後、脱力感が襲いかかった。


地面にヘタリ込む。


やってしまった。


死んだ。本当に、死んだんだ。


人間は、家族が死んだと分かっても、すぐには泣けないものなんだな。


いや、私が家族のために涙を流せない人間なんだ。


ゴミのような、人間。


私が、死ぬべきだったんだ…。



私が…。




「藤田くん!」



俯きながら、絶望をはらんだ後悔を味わっていると、私が最も欲していた声が降りてきた。


暖かい光が、音になって私を包み込むような感覚。



見上げなくても、持ち主の顔が分かる声の、続きを聞く。



「お父さん、死んでないよ、生きてるよ」


「え?」


驚いたはずなのに、彼の方を向くのは、ゆっくりとしているのが自分でも分かった。



「僕が、『拒絶』したんだ」



夏の暑い夜に、河川敷の涼しい風が通り過ぎる。

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