第40話 助けて

真っ暗な部屋の中、玄関が閉まる音がした。


気になって、部屋を出て、階段を降りてみる。


「お父さんなら、近くのコンビニに、お酒を買いに行ったわよ」


「別に、あの人のこと聞きたかったわけじゃないし」


そうか、出かけたのか。


ただ、ちょっと近くに出かけただけだ。すぐに戻ってくる。


すぐに。


どうしてか、私は直感する。父さんが家を出たきり、もう戻ってこないことを。私の、人を呪う能力は実在するということを。


呪ってから、1時間後に死ぬこと。そして、父さんの寿命が、あと10分しかないこと。


そんなこと、あるはずがないのに。しかし、次に生まれる感情は…。


私は、玄関を飛び出した。「サトちゃん⁉︎」と私の奇行に驚く、母さんの声を流す。


そのまま、コンビニの方向に走る。



どうしよう。


父さんが、死んでしまう。どうしよう。どうしよう。


鼻の奥がじわじわと痛くなってくる。最近、泣いてばかりだ。情けない。


純粋に父親の死を危惧しているわけじゃない。私はきっと、自分が父親を殺した女として生きていくのが嫌なだけなんだ。こんな時だって、私は自分勝手だ。だから、私には友達ができないし、冴えないし、実の父親にも嫌われるんだ。



誰か、助けて。


わがままな考えだ。


自分が仕掛けたことなのに、自分に降りかかる罪悪感から逃れるために、誰かに助けを求める。傷つく覚悟のない、無責任な自分を呪いたい。


その『誰か』とは、誰か…。頭にはとっくに浮かんでいるけど、焦点に当てて思い浮かべるのは、あまりにも申し訳ない。こんな時なのに、場違いにも照れ臭い気持ちになってしまう。



助けて…



亀井くん。



私は、父さんがよく行くコンビニに着いた。




一台のトラックが外装の一部を破壊したコンビニに。

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