第34話 イヤな顔

「楽しかった?」


夕方6時。いつもの丘。

隣の可愛い中学生兼、僕の恋人こと片岡さんは、昨日あった『あの』ことなどもちろん知らないから、素っ気なく僕に聞いてきた。


ここで、返事に詰まったら、確実に怪しまれる。僕は半ば丁寧に「もちろん、楽しかったよ」と答える。

隠してごめんなさい、片岡さん。でも、女の子と遊んでたなんて分かったら、怒るでしょ。


「片岡さんは?」


僕も尋ねる。彼女が、僕と会うとき以外は、何をしているのだろうか、気になる。


これが、恋、なのだろうか。彼女にこうやってもっと会いたいし、彼女のことをもっと知りたい。


「私?うーんとね…」


自分のことは聞かれないと思ったてたのか、少し驚いたように反応する。


「男に告られた」


「ええっ!!」


これはさすがにビビる。前のあのぶt、男の子といい、本当にモテるんだろうな。もっと良い人がいるはずなのに、どうして彼女は、こんな僕を選んでくれたんだろう。


胸のあたりが、誰かに軽く握り締められるように少しだけ苦しくなる。


「あのぶt…、僕が『拒絶』した男の子?」


おそるおそる、そう尋ねる。同じ相手なら、まだ平静を保てる。


「ううん。違うやつ」


そうなんだ。違うんだね。


なんか、僕のいない間に、新しい恋に発展されなきゃ良いけど。

そう思い、不安になる。



顔に出ていただろうか、そんな僕に気付いて彼女が嬉しそうに笑ってこちらを見る。


そして、彼女が言った。


「イヤな顔、してくれるんだ。嬉しい」


「だって…」


僕が言おうとしていることが分かるのか、「だってえ?」と、次はニヤニヤしてこちらを見る。


「な、なんでもない!」


「かわいいねっ!」


「うるさい!」



ヤキモチ(もう認める)を妬いた僕に、嬉しいと答えてくれた片岡さん。



じゃあ、逆に。



僕が藤田くんと遊んでいたのを教えたら、どんな顔をするだろうか。嫉妬してくれるだろうか。



僕の中で、期待と不安がバランス良く交わる。自信があるようで、ないようで。



ベンチから見える、昼と夜が混ざっているような、この黄昏みたいな気持ち。

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