31.男女が二人きりになったら雰囲気作りは大事

北斗を連れ近くの空き教室に入る。



掃除用具入れから箒を出して跨がり、柄を両手で持ったら、後ろに跨がるよう北斗を促す。



「何すんの?」

「静かに。」



深呼吸を数度繰り返せば、波紋一つない水面の心。何処までもシンとしたこの瞬間を逃さない。





ジャーンプ。


後、着地。




後ろの乗客と若干タイミングが合わず、柄がおかしな場所に当たってしまったのは多分気のせいだ。



北斗を見ると、なんか複雑な表情をしている。



どこか痛いのだろうか。



「……………飛ばないの?」


「箒に夢見すぎ。」


「ええ~…如何にも飛びます的なあの流れは一体…。」


「雰囲気作り。」



というのは嘘だけど。



秘密基地その1に行くのに必要な行動なんだよね。これをやってからスイッチ押さないと、作動しない仕組みになってる。



まぁ、行動はこれだけじゃなく、何気ない動作も組み込まれてたりする。例えば右足から入るとかね。



「…どんな雰囲気作りだよ。無意味に箒に跨がったという事実が恥ずい。」


ちょっと照れた顔の北斗には構わず、箒をかたずけ教卓に向かう。



「今度は何すんの?」



教卓の見えない部分にある印に指をやれば、秘密基地その1への入口が床に現れる。


「え、何これ。」



地下へ続く階段を降りていく。



「え、無視?無視なの?俺の質問。」



四次元的摩訶不思議ポケットから懐中電灯を出して照らせば、ゴツゴツした天然の壁が洞窟っぽさを醸し出す。



「ちょ、マジで何ここ。」



懐中電灯でグルリと照らしてから歩き出した。



「行き止まりが見えなかったんだけど、もしかしてずっと奥まで続いてんの?奥って行くと何があんの?」


「細かいことばっか気にしてるとハゲるよ。」


「細かくないし、俺の立場になったら、誰しもが普通にわく疑問だと思う。あと、頭皮のことは男子は触れられたくない問題だから!………今何か居なかった?」




居たね。




「怖いの?怖いと錯覚起こすから、何か居たように見えたのでは。」


「え~…そんなんじゃなくて、何か居たって絶対。」


「私と二人きりが嫌なの?幻覚か見えるほど。」


「いやいや、そんなんじゃないよ!寧ろ二人きりの方が、あっ、いや、何でもない。そんなことよりも、絶対何か居たって!」




そうだね。




「ねぇ、無視?無視なの?俺の主張。」



壁に指で渦巻きを描き、隠し扉を出現させ中へ入れば、自動で明かりが灯る。



「部屋…?なんでこんなとこに部屋が。つか、学校の下に謎の地下世界が存在しててビックリなんですが。まさか作ったとか言わないよね…って安定の無視なの?ねぇ、無視なの?」



そこは六畳ほどの広さに、テーブルと椅子、小さめの冷蔵庫があるだけの殺風景な秘密基地その1なのであった。



「こじんまりした部屋から地下世界を想像するって、北斗は妄想力が凄いね。」


「いやいや違うから、部屋からじゃないから。ここ入る前に見た光景からだから。奥の方見えなかったけど、四方八方に枝分かれした道が続いてるよね。」


「何勝手に探索してんの。このエロ野郎。」


「なんで!?」


「女子の下着が見えない、でもどうしても見たい。いや寧ろ下着の中こそ絶対見たい。そうだ、魔法だ。と何の躊躇もなく魔法をエロ活用するタイプだね。」


「なんで探索からそんな流れに!?いやだってするよね普通。得体の知れない場所来たら。何が起こるか解んないわけだし。なんか居たし。」


「こんな平和な世界で、一体何が起こると言うのか。せいぜい鳥の糞が上から落ちてくるくらいだよ。」


「いや、もっといろいろあるから。強盗とか殺人とか。あと、世界が平和だからって、ここも平和とは限らないだろ。」




そうだね。




「さぁ、チーズ食べよう。」


「そしてやっぱり無視の流れ!?」


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