人騎一体《ユナイト》システム

 ――キィン!

「「!」」

これからについて議論していたところに何かを感じ取ったルーヴェと紅茜。

雷に打たれたかのように動きを止めた二人は互いの顔を見やる。

「……ルーヴェ」

「ああ……」

「? ??」

 二人が互いに視線を同じくし、考えも同じだと察すると頷き合った。ところが、その二人の近くにいた上杉は、全く理解ができなかった。

「どうした?」

「至急警報を鳴らしてくれ。敵が来る!」

「何!?」

 上杉からの質問に答えた後、ルーヴェ達は指令室を後にし、駆け足でヤタガラスの元へ行く。そのまま取り残された上杉達は、ルーヴェの言葉を疑いながらも外を見渡せる監視カメラで確認してみると、その一つに何かが映り込んでいた。

「! アレは……!」

 カメラを通じて大型モニターに映る、その存在を知った上杉達は、先んじて動いた二人に促されるかのように、指令室の中から警報を鳴らすのだった。


 危険を知らす甲高い警告音が聖寮内に響き渡る。

 この聖寮内に留まる者達がその音の意味を知ると考えるよりも早く、行動に移った。

 一部は自分達の巣であるヤタガラスに戻り、残りは彼らに身側を拘束されていた軍の士官や、地下内に閉じ込められた多数の民間人をすぐさま退避するように行動を起こし始めていた。

 その中で聖寮に留まる人々よりも先に動いていた二人は、先程感じ取ったものへ向かおうと、聖寮の内部にある幅広い廊下の中を掻き分ける勢いで駆け抜けていた。

「まさか、昨日の今日で《やって来る》とは……!」

「ま、今回は立場が逆だけどね……!」

「そんなもん、返り討ちにするだけだ」

「当然!」

 ガルヴァス軍がこの場所を取り戻しに来ることを予想していたのだが、まさかこんなにも早くに来ることは想定外だったようだ。それでもルーヴェ達は表情を崩すことなく、自分達を討とうとする敵を逆に返り討ちにしようと、愛機が待つヤタガラスへと向かった。


 専用のアドヴェンドスーツに着替え、格納デッキに駆け込んだルーヴェ達は、すぐさま自分達の愛機たるシュナイダーへと向かっていく。

 また、その傍らにいた整備班の人間は皆、この場を退避しており、シュナイダーの出撃を邪魔されることがないことを傍目で確認した二人は、胸部から伸びるワイヤーを介して操縦席に乗り込んでいった。

 さらに正面のコクピットパネルにある、アルティメスの起動ボタンを押すとパネルに明かりが点き始める。だが、次の瞬間、

 ――ドクッン!

「!」

ルーヴェ達に何かが身体の中に入り込んできた。何かを直接注入されたかのように、その衝撃に一瞬身が前のめりになりかけるが、すぐに態勢を引き戻す。

「フゥー……。やっぱ、慣れねえな。機体との《同調リンク》は……!」

『――いつものことでしょ。こっちも参るけど……』

 ルーヴェの右隣にあるモニターから紅茜が映り込む。当然、彼女もこの《発作》には慣れないようだ。起動させるたびに彼らの身体に起こるこの発作は、機体と人間を接続する、まるでキールの言う《人騎一体ユナイト》システムであった。

「行くぞ、アルティメス」

 ルーヴェの声に応じるようにアルティメスの青い双眼が強く光ると、彼の操縦に合わせて足を動かし始める。その後を追うように、紅茜が乗るヘパイスドラグも動き出し、二体のシュナイダーは、格納庫の先に続く発射カタパルトへと足を踏み出すのだった。


 皇宮と同様に、聖寮の後方にある滑走路に陣取るヤタガラス。

 その艦橋ブリッジの中央に位置する椅子に腰を掛けるハルディは、その脇でオペレーターを務める双葉達と共に、その前方に映し出されたモニターをじっと見つめていた。

「性懲りもなく来たと思ったら、まさかあの騎士様全員でお出迎えとは……。なかなか、面白いことになってきたわね~」

「呑気なことを言わないでください! 今、哨戒に出ていたリンド達が向かっている所です!」

「それと、ルーヴェ達の準備も完了しました! いつでも発進できるとのことです!」

「よろしい。じゃ、発進を急がせて」

「了解!」

 双葉からの応答にハルディは、自分達がいる聖寮に迫ってくる脅威を対応すべく、二機のシュナイダーの出撃を許可する。その双葉もハルディに命じられるままに、待機しているルーヴェ達に出撃を促した。

 さらに彼女はキーボードを打ち込み、船体の側面に位置するカタパルトデッキの解放を行う。その解放されたカタパルトの内部に光が差し込み、奥にいたアルティメスに光が当たった。

『連戦になるけど、油断しないでちょうだい』

「分かっている。もっとも、一ミリも油断できない相手だけどな……」

 ハルディからの忠告にルーヴェは親身に受け止め、眉を吊り上げる。

 そして、アルティメスが膝の関節を曲げ、出撃できる態勢になると、艦橋から発進を促す声が上がった。

『アルティメス、発進どうぞ!』

「ルーヴェ・アッシュ、アルティメス、出る!」

 その呼びかけと共に、ルーヴェは操縦桿を前に倒すと機体の背部にあるスラスターがジェット噴射され、足場のカタパルトごと機体が射出される。

 左側のカタパルトデッキから射出されたアルティメスは、空中で姿勢を正し、背面部にある翼に模した大型スラスターを開いて、戦場へと飛んでいった。

続けて、右側のカタパルトデッキの奥に待機していたヘパイスドラグが発進の態勢を取る。

「龍堂院 紅茜、ヘパイスドラグ、行くわよ!」

 ルーヴェと同様に、紅茜の呼びかけと共に射出されたヘパイスドラグは、先を行くアルティメスと続くように飛んでいった。その赤いカラーリングと大きな二枚の翼、背面部から伸びる尻尾も含めて、まるでドラゴンの羽ばたきである。

 ヤタガラスから出撃したルーヴェと紅茜は、先んじてルビアンとレディアントの境界線に向かっていたリンド達と合流すべく、大空の中を飛翔していくのだった。



 一方、専用のシュナイダーにそれぞれ乗り込んで哨戒に出ていたリンド、アレン、道扇の三人は、レディアントから何かがやってきたことを知って、その反応があった場所に向かっていた。もっとも、その何かは三人には共通して、その正体が何なのかは分かり切っていた。

「あ~あ、適当にやって、休みたかったな~」

「無駄口叩くな。もうすぐ着くぞ」

「ヘイヘイ」

 これから戦闘が始まろうとしているのに、やる気を感じさせない態度を見せるリンドに、アレンは少し強めの言葉をかけるものの、それでも、リンドはさらりと受け流す。

「…………?」

その会話を通信越しに聞いていた道扇タオフェンは、何とも言えない表情で困っていたのだが、その数秒後に操縦席にあるレーダーが複数の反応を捉えると、彼は目の色を変え、機体をその場で停止させた。

「来たぞ!」

「「!」」

 大声を上げた道扇に促されてリンドとアレンも、正面のモニターに映る、何かを捉える。すると、三機のシュナイダーと思しき巨人が空を飛んでいる様子がモニターに映り込んでいた。しかも、その直下にも一体の巨人の姿があり、あわせて四体もの巨人が揃ってリンド達と向かい合うように直進していたのである。

「! マジかよ……! 大歓迎だな、オイ……!」

 モニターに映るものを見て、苦笑いするリンド。だが、その表情とは裏腹に冷や汗のようなものが流れていた。彼と同じものを見ているアレンと道扇も同様である。

 その彼らが見据える先、それは彼らにとっての敵にして、彼らが操るのと同じシュナイダーが、やって来ていた。その中心に、翼を生やした白いシュナイダー、ヒュペリオンがいた。

 しかもキュクロプスとは姿、形も異なるのが他に三体も確認された。内二体は先の戦いで既に見知ったのもいるが、残りの二体に関しては、あの時の戦いに参加していなかったためか、記録にもなかった。

「…………」

 その異様さに全く言葉が出なかったところに、ピピピッ、と警告音が操縦席に鳴り響き、アレンはその後ろに顔を向ける。

「! ルーヴェ達か……!」

「「!」」

 その言葉通りにルーヴェが乗るアルティメス、紅茜が乗るヘパイスドラグが三人の後方からやって来て、合流を果たした。

「間に合ったか」

「うわっ、勢ぞろいじゃない。これは戦いがいがあるわね~」

「君は気楽でいいな……」

「だが、やるしかないだろ。ここで邪魔されるわけにはいかないからな」

「賛成」

 ルーヴェ達五人はそれぞれ言葉を交わし、戦闘態勢に入る。彼らの表情に油断も慢心もない。

 一方、タイタンナイツの四人も鋭い目つきで、目の前にいる敵を睨みつける。その中でもアレスタンは、四方に囲まれた操縦席を満たすほど殺気が迸っていた。

「今日こそ、借りを返さねえとな……!」

「だから、落ち着きなさいって……!」

「さて、リベンジと行くか……」

「お前達、敵の前で駄弁るな!」

「…………」

 皇帝が認めし五人の騎士、タイタンナイツ。どれも実力の高さを周りに知らしめる強者という印象が強い。

 なのだが、リベンジに燃え、意気込む者が二人、それを諫めようとする者が二人、そして、それを押し黙るのが一人と、それぞれが異なる思想を抱えており、一見バラバラのように見える。だが、彼らは共通の主を持つこと、そして、その主から命じられたことがある。

 それは、皇帝が納めし帝国を、命を賭して守ること、それだけだ。

 いかに腹に一物抱えようと、帝国を守るという義務は絶対に裏切ることを許さない証でもあった。

「どうしますか?」

「どんな目的があろうと、我らが果たすべきことは一つ。この国をテロリストに好き勝手させないことだ。好きにやらせておけ」

「……分かりました」



「…………」

 敵味方含めて十体のシュナイダーが戦場で交わる姿をモニター越しに見つめていたハルディは、なぜか苦い表情をしていた。その暗い表情をしていた彼女に、グレイが話しかける。

「やはり心配ですか。ルーヴェ達を……」

「別に心配というわけじゃないわよ! ただ、問題は彼らが抱えているハンデのことよ」

「ハンデ?」

 彼女が心配している要素について、その意味が分からないグレイは、首をかしげる。そのやり取りを聞いていた双葉達も思わず、眉をひそめた。その直後、ハルディはその答えを口に出した。

「決まっているじゃない。あの子達が戦い続ければ、いずれ《機体に飲まれる》ということを……」

「「「!」」」

 彼女の発言に、双葉達も思わず声を上げる。

「で、でも……それは何とか制御できるようになったんじゃ……」

「あくまで、という話よ。本来ならアレは、発表されるべきではない、〝禁断〟の力なんだから……!」

 ハルディが言う〝禁断〟。それは、アドヴェンダーの命を飲み込む、人が手を出してはいけない、最悪なものであった。

 そして、ヒュペリオンが先頭に出ると、同時にルーヴェ達も前に乗り出し、戦闘が始まった。


 巨人たちが空の中で行き交う戦場に火花を散らすアルティメスとヒュペリオン。

 互いに剣を抜き、距離が縮まった所で両者は鍔迫り合いとなり、剣を押し合う状態のまま動けずにいた。

「グッ……!」

「……これまでと違うところを見せてやる!」

 その時、レギルの目が赤く光り、ヒュペリオンの目も連動するように光を放った。そして、ヒュペリオンの背面部にあるスラスターがさらに噴射し、徐々にアルティメスを押し出す。

「!」

 アルティメスが力負けし、後ろに押し出されていることに驚くルーヴェ。

 一旦体勢を整えようと、あえて後ろに退がろうとするも、そこをヒュペリオンが追い詰めてくる。

「ダアアア!」

 今度はアルティメスが剣を水平にして斬りかかり、打ち付けてくるシュナイド・ソードと合い討つ。一瞬火花が散り、両者は後方に押し出されるが、一足先に姿勢を整えたアルティメスがまた、剣で斬りかかる。

 だが、レギルが瞬時にヒュペリオンの背面部にある大型ウイングを展開させ、その場を離脱する。アルティメスの太刀筋は空を切り、レギルは一回、ルーヴェとの距離を置いた。

「「ハァッ、ハァッ……」」

 両者は激しい息遣いをしながらも、互いの目の前にいる敵から目を逸らそうともせず、まっすぐに注いでいた。そして、二人は先程まで戦いを通じて、今にも答えを出そうとしていた。

(コイツ……まさか……)

(この運動性、もしや……)

((同じシステムを使っているのか!?))



 一方、ガルヴァス皇宮の地下にある中央管理ブロックでは、ルビアンで行われている戦闘をリアルタイムで確認していた。

「なるほどね。そういうことか」

「何か分かったのか!?」

「もちろんですよ。……まさか、彼らが……レイヴンイエーガーズが使用しているシュナイダーに、僕が開発した人騎一体システムが積んでいるとはね……!」

「!? それって……!」

 戦場で剣を交える二機のシュナイダー。

 それが同じシステムを搭載していようとは、キールも予想外だったようだ。だが、すぐに興味を変え、気味悪い笑みを浮かべるのだった。

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