ポセイドーガ
へパイスドラグがルビアンのアゼイア基地で暴れ回っている一方、その他の防衛拠点では謎のシュナイダーによる襲撃を受けていた。
マシンガンの銃声が戦場に木霊する中、それとは全く異なる、轟音が鳴り響いた。
――ガッアアン!
轟音と共に、金属の破片か何かが宙に舞い、地面の上に立っていたあるものがゆっくりと倒れるかのように横たわる。その後、破片が落ちてきた。
その正体とは、ガルヴァス帝国の軍事兵器であるディルオスだ。しかし、その頭部が半分抉れており、胸部もなぜか凹みがあった。何かにぶつかって装甲の一部が変形したのだろう。それは無残そのものだった。
『う……あ……』
地面に横たわる機体の後方にいた複数のディルオスが後退る。ついさっき倒されたディルオスの姿を見たという捉え方もあるが、それは間違いである。
彼らが見ていたのは、目の前で対峙している、ディルオスとは異なる存在、そして、その後ろで同じく横たわっていた無数のディルオスの残骸であった。どれも装甲や機体の一部が目に見えるように拉ひしゃげており、さっきのを合わせても、まるで無数の死体が転げ落ちているということに相応しかった。
そのディルオスとは異なる存在とは、当然それを打ち負かせることのできる同じシュナイダーしかいない。だが、彼らが見るシュナイダーはディルオスとは姿、形とも違っていた。
ドン、と大きな物音を立てる。その音を立てたのはもちろん、そのシュナイダーからだが、音の立て方がわざとであることは明らかだった。もっとも、その音でディルオスがさらに後ろに引いたのは間違いないが。
その物音の正体、無数ものディルオスを半壊状態に陥れた巨大な棍棒。
それを手に持っていたのは、両肩から伸びる砲塔と、全身に掛けて身を守るかのように装甲に包まれた橙色のシュナイダー、「デストメテル」だった。
「お前ら……ぶっ潰してやるよ」
そのコクピットでデストメテルを操縦する橙色の髪を持った青年、ガリア・ロンガークはモニターに映るディルオスに恐怖を与える言葉を語り、操縦桿を動かす。
デストメテルはその棍棒を両手で持ち上げ、右肩にかけつつスラスターを噴射させる。ホバー移動で砂埃を上げながらその勢いに任せて、前面に展開するディルオスに突撃した。
距離を詰めると同時に棍棒が振り回されようとした時、危機を感じたディルオスはスラスターを噴射させてホバー移動でそれぞれ散り出す。棍棒はそのまま地面に叩きつけられ、舗装された大地が抉り出される。
「ハッ! 反応がいいな。だが……!」
すぐさま棍棒を引き抜いたデストメテルはその一体を捉え、再びスラスターを噴射させて追いかけ始める。脚部のスラスターの他に背部にある大型のスラスターも噴射され、猛スピードでディルオスとの距離を詰めていった。
『クソッ! 振り切れない!』
少しずつ距離を詰められていることを、レーダーを通じて危機感を募らせたディルオスは振り向きつつ、マシンガンを発砲する。
弾丸の礫がデストメテルに襲い掛かるが、弾丸はその装甲を貫通することもその衝撃を利用して転ばせることもないまま弾かれていく。
そして、距離を詰めたことを確信したガリアはそのまま棍棒を袈裟斬りの要領で振り抜いた。
「フッ!」
振り抜かれた棍棒は一直線にディルオスに向けられ、機体そのものを叩き割った。棍棒に叩かれたディルオスはその衝撃で吹っ飛ばされ、地面にぶつかると同時にその勢いのままバウンドしていく。
また、その手に持っていたマシンガンも地面に転がり、機体がバウンドするたびに装甲の一部が剥がれ落ち、最後は地面に横たわった。
その一撃は左肩から入り込んでおり、左腕が完全になくなっている。だが、咄嗟に左腕に装備されたシールドが阻み、邪魔になったためか傷は浅い。しかし、そのシールドは左腕ごと引きちぎられた上、見事に曲がっており、文字通りスクラップにされてしまった。
一方で地面に打ち付けられたディルオスは再び起き上がろうとする。ガードしたとはいえ、その衝撃までは数割程度しか殺せなかったため起き上がるのも時間がかかっている。
そこに近づいていたデストメテルの左手が頭部を掴み、そのまま引き上げられ、宙ぶらりんにされてしまう。もはや晒し首であった。
『ク……!』
「ん?」
頭部を掴まれたディルオスがまだ抵抗を見せようと右腕を動かしている。だが、機体の各部から火花が散っていて、その動きは非常に緩やかだ。棍棒によるダメージがまだ残っているということだ。
だがそれは、ガリアにとっては非常に美味しいものであることを見落とすことなる。
「まだ抵抗を見せるか……。いいだろう。お望み通りにしてやるよ!」
ガリアが左の操縦桿に備わるスイッチを押し、左腕の下に位置する杭のようなものがディルオスの胸部を捉える。そして、その杭がバリスタのように射出され、胸部に位置するコクピットごと貫いた。
その衝撃は背部にまで届き、その内部に位置する機器が破片と共に飛び出る。その後、動かしていたはずの右腕は完全にぶらりと重力にひかれていき、ディルオスは機能を停止した。
最後は杭を元の位置に戻したデストメテルが掴んでいた手を離し、ディルオスは重力に任せるように横たわる。当然、中にいたアドヴェンダーの声は永遠に聞くことはないだろう。
「さて、仕切り直しだ」
ガリアの眼光がデストメテルを通じて周囲に留まるディルオスに注がれる。
その時、灰色の弾丸が視界に入った。弾丸はそのままデストメテルに直撃し、爆発と共に煙に包まれる。アドヴェンダーのスキを突き、一体のディルオスがバズーカを発射したようだ。
『どうだ! 奴も無事では済まな――』
アドヴェンダーの言葉が言い終える前に、立ち篭もる煙の中から二つの光弾がそのディルオスを貫く。何が起きたのか理解する間もなく、爆散した。
『何ィ⁉ ま、まさか……!』
煙が晴れ、中から現れたのはデストメテル。両肩から伸びる砲塔から煙を吹かしている様子から、さっきの光弾はあの機体から放たれたものだった。
しかも弾頭が直撃したにもかかわらず、無傷であることも含めて、機体を纏っている装甲は想像以上の堅牢さを誇っていることを示唆しており、マシンガンの弾丸すら弾かれていることから、ディルオスの持つ武装では傷一つすらつかないことを意味していた。
デストメテルの周囲を囲む十にも満たない数のディルオスが一斉にマシンガンを構え、引き鉄を引く。躱せる隙間すらない弾丸の礫が襲い掛かる。
「!」
しかし、ガリアは足元にあるペダルを踏み、背面部と脚部にあるスラスターを噴射させて上空に移動する。襲い掛かるはずの弾丸は先程までデストメテルがいた場所を通過し、そのまま後方の位置に展開していたディルオスに襲い掛かった。
『ウワッアアアーー‼』
味方が放った弾丸が襲い掛かるのを知ったディルオスは引き鉄を外し、瞬時にシールドを前に出しつつ、当たり所を少なくするように身を屈める。周囲を囲むように放たれた弾丸が、その周囲に展開していた味方に当たることになってしまった。
礫は物の数秒で止み、それぞれ装甲の一部が凹む程度に留まったものの、下手すれば同士討ちになることは免れなかった。次々と味方が破壊されること、先程のディルオスの倒し方がショックだっただけに冷静な判断ができなかったのは言うまでもない。
この攻撃で一体も犠牲が出なかったことにアドヴェンダーは安堵するが、それは一瞬の油断を招き、次の瞬間、そのアドヴェンダーの意識はあるものを目にしたまま、最期を迎えることになった。
空中にいたデストメテルが棍棒を構え、地上に降りると同時に、一体のディルオスを叩き潰したのである。その衝撃は地面にまで響き、破片が飛び散る中、そこを中心に大きなヒビが入る。
『!』
その衝撃の近くにいたディルオスが瞬時に退こうとすると、煙の中から大きな棍棒が横から入ってきて、弾き飛ばされる。ただ、引き際が良かったことと、シールドを構えて防御していたためかダメージは意外と少なく、数メートル引きずられたのだが、稼働に支障はなかった。
そして、デストメテルが再び棍棒を構え、
「ハァアアア――!」
ガリアの歓喜なる雄叫びと共に、デストメテルは次なる獲物を狩りにまた突撃するのだった。
さらに一方、海の近くに展開する、帝国のもう一つの拠点では……
「さらにディルオス一機ロスト! 防衛線、混乱収まりません!」
「何をしている! 相手はたった一機だぞ!」
「ですが、何者かが我々の邪魔をしている者が……」
「…………!」
防衛拠点の司令部に表示されるのは、拠点を中心とした位置情報を表す場所。
そこにいくつかの反応が素早い動きをする一つの反応にかき回されている状況であり、後方から襲い掛かろうとしている所を何かが介入して、シュナイダー部隊の足を緩やかにしていた。
その数機のディルオスに襲い掛かるのは青の装甲を纏うシュナイダー一機。しかも船を固定させるアンカーの形をした槍のような得物を手にし、攻撃を行おうとしていた。
青いシュナイダーは槍というより、ハルパードに似たその得物を振り回し、頭部に叩きつける。その先端部にある鋭利な刃面が首元を切り裂き、頭部が宙に舞う。
さらに返しとしてハルパードを左から振り払い、ディルオスが保持していたバトルアックスを弾き飛ばす。
そして、間髪入れずにハルパードを縦から斬りつけ、刃面が深く胸部に入るとディルオスは動きを止める。シュナイダーが引き抜くとそのディルオスは力を無くしたのか、地面に膝を立て、そのまま仰向けとなった。
その青いシュナイダーはディルオスがいる方向に振り向くとその全貌を現す。
背中に二つ搭載されたブースター、腰部に掛けられた実体剣、左腕に装着されたシールド、そして目元を隠すバイザー。どこから見ても普通のものではなく、どこの国にも当てはまることのない姿であった。
この機体の名は「ポセイドーガ」。そして、コクピットの中で操縦するのが青い長髪を束ねた長身の女性、リーラ・ネイティブだ。その青い目がディルオスを捉える。
「ようやく戦場に立てたんだ! 思いっきり暴れさせてもらう!」
『ウロチョロされると、援護しているこっちが困るんだけどな……』
「うるさいわよ! アンタはしっかり、お膳立てしなさい!」
コクピット内に響く青年の言葉に、気分を害されたリーラは咎め、操縦桿を前に倒して戦闘を再開する。
『オリャアアア!』
「…………」
通信越しにリーラの雄叫びをあまり耳に入れたくないのか不機嫌そうな顔をする青年が一人、ポセイドーガに似た形式のコクピットに座っていた。
「やれやれ……先が思いやられる」
ぶっきらぼうに呟く緑髪の青年、アレン・パプリックはため息を吐くと自身に与えられた任務を果たそうと外を映し出すモニターに目をやった。遠くを見ようと、その眼に照準サイトが展開され、徐々に奥へと画像が拡大される。
するとモニターが捉える、その景色の先にポセイドーガが暴れている基地があった。ただ、それを捉える距離は、拡大されていることを含めて、はるか遠くに離れていたのだ。そのため、基地からは彼の姿を捉えることなど不可能に近い。
そもそも、アレンが乗る緑のシュナイダー、「アレストロイア」は基地の索敵範囲外の場所、それも空の中に潜み、敵からの攻撃を最も受けにくい場所に留まっているからだ。その届きにくい場所から彼は目を凝らしていた。
しかも両手には射程、および銃身の長いスナイパーライフルを抱えており、銃口を常に目標を補足させている。その静かな瞳がまっすぐに獲物を見渡していた。
「始めるか……。アレストロイア」
アレンはその眼で捉える目標に向けて、静かに引き鉄を引くのだった。
引き続き基地内で暴れ回るポセイドーガは、一定の距離を保ちながらマシンガンを発砲するシュナイダー部隊を相手にしていた。しかし、チマチマと攻撃をするガルヴァス軍の戦法にリーラはイラついていた。
実際、ポセイドーガが現れてから出動したシュナイダー部隊のほとんどが倒されてしまったため、生き残っているアドヴェンダーからすれば、軽く戦意を喪失してもおかしくもない。
それを避けるため、数機のディルオスは恐れを抱きながらも団結し、リーラを疲弊させる目的で行動しているのだ。しかし、それを基地の外から撃たれる閃光が一体のディルオスを貫き、爆散していく。
既にこの基地内にはほとんどの機体しか残っていなかったのである。
「戦う気あんのかね~。まあ、こうも性能差がはっきりとされちゃあね!」
左腕を軽く突き出したポセイドーガは腕部に装着されたマシンガンを発砲し、無数の光弾がディルオスに襲い掛かる。その光弾をまともに喰らい、ハチの巣のように撃たれたディルオスが倒れるとそのまま爆散し、爆炎から生まれた煙が天へと昇っていった。
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