第48話 屋敷の変化

あの日以降、屋敷内でいくつかの変化があった。

まずはイラステー以外の侍女も離れに出入りするようになったことである。

イラステー1人ではエタンキアの館の維持が厳しくなったからだ。

クノータスはエタンキアがこれ以上問題を起こさないようにすることを願い、かつエタンキアと争わずにすむ案を模索した。

それが2つ目の変化で、イラステーを護衛につけることだった。

エタンキアは従者が少ないことを好んだため、護衛もできるイラステーがあてがわれたのだ。

護衛ができても従者1人など非常識だが、これが姉弟の妥協案らしかった。

あんなことがあってもエタンキアは、あの屋敷に行く時は相変わらず馬車や馬、輿を断固拒否した。

これは単純に馬車や輿を使うと従者が増えるからだが、それに伴う危険を顧みないのはエタンキアがイラステーを信用しているというよりも、自分の命などどうでもいいと思っているからのように思われた。

ともかくイラステーにとって毎日の鍛錬が更に重要になったことは間違いない。

3つ目は、屋敷内の人たちがイラステーに対して態度を軟化させていったことである。

どうやらエタンキアの変化はイラステーが少なからず影響していると、考えているらしい。

訓練に参加するイラステーをよく思わない古参の使用人や傭兵たちも少しずつ以前のように話しかけてくれるようになった。

しかし彼らは知らない。

もともとイラステーは他の者たちとはエタンキアとの関係が違うのだ。

マルケとのつながりを考えるとイラステーはある意味、特別であったと言える。

だがこれらの変化はありがたいことだったので、甘んじて受け入れることにした。



イラステーは初めて男たちに誘われ昼食をともにしていた。

ここは屋敷内にある従者専用の食堂で働くものたちは皆ここで食事をとった。

そばにはモドレゴをはじめ、あの事件以来声をかけてくれるようになったアネスやタロンもいた。

部屋は屋敷内にあるのであまり大きな声では話せないが、屋敷勤めの者たちの井戸端会議はどこの貴族の屋敷でも見られる光景だ。

「エタンキア様は皆さんにも辛く当たられておいででしたか。」

モドレゴは笑った。

イラステーはその笑いに既視感を覚えた。

イラステーは不機嫌な顔をした。

「何がおもしろいんですか。」

「いや。イラステーはエタンキア様が好きだからな。」

イラステーがその言葉が気に入らず、言い返そうとするとアネスの言葉で遮られた。

「辛く当たられたとかのレベルじゃねぇよ。

あれはヒステリーだ。

お前は自分が余興に使われたことも覚えてねぇのか。

あんなの日常茶飯事だったんだぜ。

クノータス様やプロト様がいなかったら、こんな屋敷とうにやめてるね。」

タロンが笑った。

「お前に選択の余地なんかないだろ。

家が借金だらけで、妹2人養わなきゃならないんだから。

それに口を慎めよ。お前が辞表出す前に首を切られるぞ。

ここに女主人のスパイがいるんだからな。」

タロンがイラステーを見た。

イラステーは自分のことを言われていることに気づき、言い返した。

「何なんですか。みんなして!

私は皆さんを売ったりしませんよ!」

どうだかな、とみんなしてイラステーを笑った。

これが彼らなりの親しみの証なのかもしれないが、何となく納得いかなかった。

「まぁ、お前のおかげで間違いなくエタンキア様は変わったよ。

これからもせいぜい女主人にこき使われてくれよな。」

タロンが豪快に笑ってイラステーの背中を叩いた。

やはり物言いが腹立つがイラステーも笑うしかなかった。

こんな雰囲気は久々だ。

マルケの稽古場を思い出す。

イラステーはそこでもこうして弟分のような扱いを受けていたのだ。

みんなとこんな時間を過ごせることが嬉しかった。

イラステーは物事が全てうまくいきだしていると感じていた。

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