第47話 エタンキアの失踪5

イラステーが屋敷から戻ると、間髪入れずモドレゴがイラステーのもとに来た。

クノータスがイラステーを呼んでいるとのことであった。

先ほどまでエタンキアとどこへ行っていたのかを尋ねられるのだろうと思ったが、予想は外れた。

「プロトから概要は聞いた。大義であったな。」

イラステーはまたあの書斎に呼ばれた。

叩頭しながら答えた。

「滅相もございません。アネス殿、タロン殿がいなければ命はありませんでした。」

「あの2人からはすでに話を聞いた。

お前のことを褒めていたぞ。

ここ最近町を騒がせている野党を捕まえたのだ。

市民も心休まるであろう。

私からも礼を言おう。」

「もったいないお言葉でございます。」

クノータスは鷹揚に頷いた。

「これからも頼りにしている。

一層鍛錬に励むがよい。下がってよい。」

イラステーは驚いて顔を上げた。

それだけなのか。

命が助かった姉であるエタンキアのことや、深夜彼女が何をしていたのかなどは

一切気にならないのだろうか。

それとももうすでに知っているのだろうか。

クノータスはイラステーの反応に表情一つ動かさなかった。

「下がってよいぞ。」

イラステーは考えるより先に口走っていた。

「お館様は、エタンキア様が連日どこへいらしていたか、

ご存知でしたか。」

クノータスはしばらく何の反応も示さなかった。

その時間はまるで拷問のようであった。

そうしてようやく口を開いた。

「イラステーよ。そなたはその口をどうにかした方がよいだろう。

平穏に暮らしたいのならな。」

イラステーは慌てて叩頭した。

「申し訳ありません。」

「私がお前に沙汰を下す前にここを去るがよい。次はないぞ。」

イラステーは再び深く叩頭し、急いでその場を辞した。

イラステーは離れに向かいながら己を呪う言葉を頭の中で叫び続け

た。

だが一方で冷静な自分がクノータスの反応について考えていた。

クノータスは連日、姉がどこへ通っていたか知っていたようだ。

イラステーの視界がぼやけた。

梯子が立て掛けられた土レンガの壁は、奇妙に窪んでいた。

マルケがここを去ってから幾度あそこを登ったのだろう。

そしてそれを知りながら長年知らぬふりを続けたクノータス。

なんて悲しい姉弟なのだろう。

だがそう思い至ったところでイラステーは皮肉な笑みを浮かべた。

私も決して人のことは責められない。

小さな妹と病の母を残してきたのだから。

イラステーは暗い思いから逃げるようにエタンキアの夕餉の支度に

取り掛かった。

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