食欲


 アキラは、突如として現れた男の子を

 不思議そうに見ていた。


 男の子の手には金色の林檎。

 なぜか、そこから目を離せない。


「美味しそうな林檎だね」


 アキラの言葉に、

 男の子は笑みを零した。


「とても大きくて、甘いんだ。

 ひとつしかないから、

 お兄さんにはあげないよ」


「取ったりしないよ」


 男の子は林檎へかぶりつく。


 新鮮な果肉を抉り取る

 軽快な音が響いた。


 林檎は見る間に形を失う。


 それを眺めるアキラはなぜか、

 言いようのない喪失感を覚えていた。


「お兄さん。今、どんな気分?

 欲を食べられちゃった人って、

 どうなっちゃうのかな?」


 男の子は消え、

 無気力になったアキラは

 自室へ引き籠もってしまった。


 まるで別人だ。

 そんな噂だけが残された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る