第8話 プレゼント

「次はどこ見るー?」


 すぐそこまで夏が来ているのか、じりじりと太陽が照りつける、休日の昼下がり。


「そうだねぇ。あ、私、文房具見たい!」


「オッケー、リナちゃん!じゃ、そこに入ろ」


 私は暑さでふらふらだけど、先行く二人は全然平気そうだ。


「……ほんと、暑いな……」


 口に出すと、余計に暑くなってきた。


「サクラー?早くおいでよー!」


 リナの元気な声が私を振り返る。


「……今行く」


 歩道の反射がまぶしい。



「いらっしゃいませ」


 文具店の中は、冷房が入っていて、軽く別世界。


「……ふわぁ」


 少し汗ばんでいた背中もしばらくすると乾き、ようやく二人に追いついた。


「……リナは何を見たかったの?」


「サクラ、やっと元気になったね。暑かった?」


 こくり、とうなずく。


「あはは、さくらちゃん夏休み、外に出られないんじゃない?」


 桔梗ちゃんは本当に、相も変わらず元気だ。


「確かに。サクラを家から連れ出すの、大変だもんなぁ……」


 否定はしない。というか、できない。私は基本、夏休みの間は外に出ない。理由は簡単、暑いからだ。


「……で、結局何しに来たの?」


「……聖花せいかの誕生日プレゼントを買いに来たの」


 少し顔を赤らめて、リナがうつむき加減に答える。


 川村君の話をしているときのリナは、本当にかわいい。もちろん、いつもかわいいけど。リナを見ていると、「恋する乙女」という言葉が頭に浮かぶ。


「え?なになに?リナちゃん、好きな人いるの?」


 さすがというか、なんというか。桔梗ちゃんは察しがいい。


「……まぁ、この話はいずれ……」


 適当にごまかそうとするリナ。それくらいで引き下がる桔梗ちゃんじゃないけどね……。


「わかった。じゃあこの後近くのカフェに入って、そこでパフェ食べながら聞かせてもらおう」


 「わかった」で安心したリナの顔が、その数秒後、凍りついた。


「……とりあえず、プレゼント選ぼう?」


 リナには悪いけど、私もパフェは食べたい。サクッとプレゼントを選んでもらおう。


「うう……。プレゼント、何がいいと思う?」


 一応、立ち直ったらしい。さすがリナ。


「うーん。なんだろうね?男子の欲しいものってわかんない」


「……右に同じ」


「二人連れてきた意味ないじゃん!」


「え!? 私たちそのために呼ばれたの?」



 さんざん三人であーでもない、こーでもないと話し合った結果、川村君にはシャープペンが贈られることになった。それなりに有名なメーカーの品で、リナが愛用しているものと色違い。ちゃっかりしてる……のかな?


 なんだかんだで一時間ほど悩んでいたけれど、ラッピングされたシャープペンプレゼントを胸に抱くリナが本当にうれしそうで、思わず私は桔梗ちゃんと顔を見合わせて笑った。


「リナちゃん、乙女だね。恋する乙女」


「……うん。かわいい」



「ありがとうございました」


 店から出ると、すっかり忘れていたむせ返るような熱気。でも、さっきまでは重くなっていた足取りが、今は不思議と軽い。


「幸せって、伝染するね」


 今にもスキップを始めそうなリナをまぶしそうに見ながら、桔梗ちゃんが言う。


「……そうだね。うまくいくといいなぁ」


「リナちゃんなら、うまくいく気がする」


「……うん」


 不意に、リナが振り返る。


「二人とも、早くパフェ食べにいこーよ!」


「……あの様子じゃ、私の話覚えてないな……」


「……まぁ、いいんじゃない?楽しそうだから」


「そーだね。私は容赦しないけど」


 桔梗ちゃんはにやりと笑う。


「……悪そうな顔してるよ、桔梗ちゃん」


「ひっひっひ。ぜーんぶ暴いてやる!」


 魔女のような笑い声を残して、彼女は駆け出す。


「あ、待ってよ……」


 私も二人を追って、走り出した。





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