第49話 アリバイ

 空の色がもう薄っすらとくらんできている。

 もう夕暮れも近い……マズいな。

 星が姿を見せるような白い輪郭がある。

 その空の奥になにかが見えた。

 それはなぜかこちらに向かって飛んできた、あっ、あれは鴎。

 鴎が僕の頼んでいた情報を持ってきたんだ。

 さすがは相棒完璧なタイミングだ。


 ――ズシ。僕の肩は鴎の体重を受け止めた。

 僕らはいつだってこうして難題を解決してきた。

 鴎は彼等のアリバイと【臼の仇討事件】の追加情報を僕に告げる。


 ……ん、そうか……それは残念なことだ。

 けれどこの状況でも泣きっ面に蜂とまではいかない。

 それでも鴎はいい判断をした。

 でなければ完全に日は落ちてしまっていたはずだ。


 早期解決しなければ鬼ヶ島に足止めされてしまう。

 さあ、みんなのアリバイを崩しにかかろう。

 鴎の登場によってすこし折れかけていた僕の心は持ち直した。


 僕と鴎は目で合図した、ここではもう言葉はいらない。

 桃太郎さんたちはまた僕を注視している。

 鴎はまた空に舞った犯人を確保する準備のためだ。

 それまでに犯人を捜し当てなければアリバイを崩していけば新しいなにかが見つかるはず。


 「それではみなさん。赤鬼さん殺害時刻のアリバイを教えてください?」


 「俺は寝てた」


 エイプさんはぶっきらぼうに答えた。

 まだ憤りをしずめられずに歯茎を剥きだしにしている。

 歯間からスースーと空気が漏れた。

 そう簡単に沸騰した熱は冷めないでしょうね?

 エイプさんあなたは鬼族のように気性が荒いさらに他者の感情にも流されやすい。


 けれど。

 けれど。

 あなたはやっぱり優しい。


 「それを証明してくれるかたは?」


 「いねーよ。そんなもん」


 エイプさんは鼻息を荒くしてそっぽを向いた。

 そんな性格であっても、いや、あるからこそ人情味に溢れているのかもしれない。


 「わかりました。つぎはポチさん」


 「僕は知り合いのお爺さんの家にいました」


 「そうですか。つぎはジーキーさん?」


 空から戻ってきたジーキーさんはハァハァと息せき切っていた。

 黒い豆のような目玉が水面を見ている。

 胸元がポコポコと膨らんだり萎んだりを繰り返す。

 だいぶ呼吸が乱れているな。


 「えっ、なんのことですか? 空にいたから話を聞いてなくて」


 ジーキーさんは僕に向き直す。


 「では、もう一度うかがいます。赤鬼さん殺害時刻のアリバイを教えてください?」


 「えっ? お、俺は、えっと、あの」


 ジーキーさんは、そのあと――あの。といったきり言葉に詰まった。

 さあジーキーさんどう答えますか?


 「ジーキーは俺と町を散歩してたっす」

 

 そういったのは桃太郎さんだった。

 なるほど助け船をだしましたか。

 それにったジーキーさんも――そうそう、と、いままのいままで墨を塗ったような黒目だったのにそこに光が射した。

 僕に――どうだ。とでもいうようになんどもうなずいている。


 「それを証明してくれるかたは?」


 「お互いです」


 桃太郎さんは強引にジーキーさん手、いや羽をとるとがっちりと握手をした。

 ぶんぶんと手を振ってお互いの親密さをアピールしているようだった。

 でも、それはとってつけたようにもろいアリバイです。


 「ジーキーさんは桃太郎さんを。桃太郎さんはジーキーさんのアリバイを証明すると?」


 「そっすよ」


 「それは残念ながらアリバイ証明にはなりませんね。残念ついでにもうひとつ。じつは鴎がすでにみなさんのアリバイの裏を取っています。すみません」

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