第38話 鬼ヶ島への道 ~聞き込み~
僕が孤島の影だと思ったものはどうやらゴミの塊だったようだ。
まるで海の上で渋滞を起こしているように詰まっている。
こんなに広い海でゴミの塊がただただ浮遊しているなんてこの前の洪水はよほどひどかったに違いない。
これだけの木々や土砂が海に流れでたことになる。
被害を受けた田畑のかたには心からお見舞いを申し上げたい。
じっさいに目の当たりするのと聞いた話とではずいぶんと印象が違っていた。
船体のすぐ脇に目をやるとひとつの熟した柿がぷかぷかと浮いている。
あまりにも接近していて気づかなかった。
木に
けれど海水でふやけたのか石かなにかが当たったのか、ところどころがぐちゃぐちゃに潰れて
こう見ると果実類もまたたくさん海に流れ出たようだ。
「ちなみに今日。厳密には午の刻から現在までで鬼ヶ島に向かった者はいますか?」
「え~とそれなら桃太郎さん。そのあとは犬さんでっせ」
船頭さんはそういってざぶんと櫂を返した。
「なるほど……」
「桃太郎さんはキラキラの羽織でヤケに目立ってね~」
「桃太郎さんはそんなかっこうで鬼ヶ島へ?」
「そうさ。ほんとに洒落たかっこうだったよ~」
「そうですか。逆に鬼ヶ島から本土に戻ってきた者は?」
「誰もいねーな」
「そうですか」
「ほかの船頭さんで今日ここを往復した者はいますか?」
「今日はいねーなー。おいらだけだ」
「ありがとうございます。参考になりました」
「けんど。青鬼さんが鬼ヶ島にいくってことはなんかの事件かい?」
「ええ」
「そっか~」
船頭さんは状況を察してこれ以上はなにも訊いてこなかった。
舟の上にすこしの沈黙が訪れる。
これから向かう事件現場とは真反対で凪の海は静かで優雅なものだ。
櫂を漕ぐ音と海水のじゃばんという水飛沫それにときおり流れていくちゃぷんというゴミの音だけが静寂を遮る。
いまも僕らに手を振るようにゴミが流れていった。
それからもしばらく舟に揺られていると、大きな一本松が目に留まった。
地にしっかりと根を張っていると推測できる大木だ。
あれほど立派で太い幹になるのにはかなりの年月を要するだろう。
巨木からは数本の太い枝が生えていた、一本一本の枝に人が寝転んでも折れることはなさそうだ。
それくらい頑丈にみえる。
高さだってゆうに十メートルはある。
ともすれば松の天辺から鬼ヶ島までひとっ飛びできるかもしれない。
この日本松が見えるということは鬼ヶ島はもう近くにあるということだ。
舟が島に近づいているのか島が舟に近づいてくるのかわからない感覚になった。
すぐに“コ”の字状に開かれた浜辺が見えてきた。
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