第33話 事件書類

 「――【白犬撲殺事件】これは現段階ではうやむやになっているのか……」


 事件発生の日付順に重ねられた書類の中で、僕はつぎに【臼の仇討事件】の書類を手に取ってぺージをめくった。


 「へ~これは赤鬼さんが仲裁に入ったんだ。そのおかげで仇討申請は取り消されている」


 いくつもの事件書類をながめているとふと鴎の話が気になった。 

 まず噂の桃太郎さんと赤鬼さんの評判についてだ。

 桃太郎さんは彗星のように突如として現れた男で素性はまったくの不明だった。

 いつも派手な陣羽織を着ていて町の風紀を正す剣士ということまでは判明している。

 どこか功名な師の元で育てられたのかもしれない。

 なにせ帯刀を許されているのだから。


 反対に赤鬼さんはというと民からの苦情がたくさん寄せられていた。

 僕と鴎がかわるがわる定期的に回収にいく目安箱。

 その中に入っていた物がいまここにある。

 もっともその集計期間は長くてかれこれ数年前のものまである。

 僕はそのなかの何枚かを手にとってさっそく一枚目を開いた。


 ――顔が怖い。


 つぎに二枚目を開いた。


 ――子どもが泣く。


 つづけて三枚目と四枚目を開く。


 ――体がゴツゴツしている。


 ――いまにも襲いかかってきそう。


 う~ん。僕は思わずうなった。

 この苦情に関しては本当に気の毒だ。

 どれもこれも赤鬼さんの容姿に起因することばかりですべていいがかりに近い。

 とても赤鬼さんに非があるようには思えない。

 顔が怖いのも子どもが泣くのも不可抗力というものだ。

 体がゴツゴツしている、これも個人の身体特徴なことであるしそもそもゴツゴツしていてなにが悪いのか?

 誰かに迷惑をかけたのだろうか?


 襲いかかってきそう。

 これもイメージの問題だ。

 襲いかかってきたのであれば傷害罪に問えるのだけれどじっさいは「きそう」という未来予測なのだ。


 ただ僕自身も鬼属ということもあってうがった見方をしてしまったのかもしれない。

 それでも赤鬼さんに定期で同じような苦情が投稿されるのはそれらのイメージが民たちに焼きついてしまっているからだろう。

 それを払拭ふっしょくするのは並大抵のことではない。

 ここはひとつ僕も冷静で中立な立場にならなければいけない。


 僕は赤鬼さんが仲裁役を買ってでた【うすの仇討事件】の事件調書に没頭した。

 ときが過ぎるのも忘れ物語を読むように夢中になってページをめくった。

 ただ、この調書の登場人物は名前がほぼ伏せられていて赤鬼さんが事件ことを収めたていどのことしか書かれていなかった。


 それもそうか。

 仇討ち申請が取り下げられているのがその理由だ。

 臼さんはいったい誰に仇討ちをしようとしていたのか。


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