第398話 ある決定

 3月19日金曜日放課後。

 外は雨。

 でも準備室の空気が重いのはそのせいじゃない。


 理由は今後一週間の天気予報と予想天気図。

 いわゆる春雨前線が本州上にかかってきている。

 ここ一週間は動かないだろうとの事。

 天気図の西の端っこの方に発生している低気圧も気がかりだ。


「この天気図だと、27日以降もあまりいい天気は期待できないのです。風もきっと強いと思うのです」

 未亜さんが天気予報等の情報を簡潔にそう説明する。


「キャンプ場のキャンセル無料は今日までだよ」

 彩香さんの台詞。


 そう。

 今皆で悩んでいるのは『天気が悪そうだけれども、春合宿を中止にするべきか』という事だ。

 天気図で見る限り先行きはあまり良くない。

 でも一週間後の事だから、ひょっとしたら変わるかもしれない。

 ただ晴れたとしても前線や低気圧の影響で風が強い可能性も高い。

 でも一週間後のことだから……

 以降その繰り返し。


 なお美洋さんや未亜さんは春休みに一度実家に帰るため、予備日程は無い。

 なお今回は先生も先輩も決定には参加しない。

 1年生5人で決めろとの事である。

 時計が午後4時30分を過ぎた。


「そろそろ材料も理由も出尽くしたと思うのですよ」

 未亜さんが言う。


「そうだね」

「なら採決しましょうか、5人で」

「仕方無いのだ」

 亜里砂さんも頷いた。

 よし、なら僕も声をだすとするか。


「なら採決を取ろう。キャンセルしたほうがいいと思う人、手を上げて」

 そう言って僕も手を上げる。

 見ると未亜さんはもとより美洋さんも、亜里砂さんも彩香さんも手を上げていた。


「なんだ、亜里砂もキャンセル派だったのか」

 今までの会話では当日にコースを変えるとか天気が変わるかもしれないとか言っていたのに。


「討論には反対意見も必要なのだ」

「なら全員一致でキャンセルとするのですよ。そんな訳で電話をかけるのです」


 未亜さんがそう言って電話をかける。


「はい、27日から二泊予約した松岡です。はい、はい。それで申し訳無いのですが、天候があまり良く無さそうなので、はい、はい、そうです。ありがとうございます。それでは失礼致します」


 電話を置く。


「キャンセルしたのです。これで春合宿は残念ながら中止なのです」

「ま、仕方無いな」

 俺は努めて明るく言う。

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