第376話 うるさいガスバーナーと御飯の火加減

 今回も快調のまま三ノ塔に到着した。

 二ノ塔も見晴らしがよかったが、こっちは更に上。

 この先の尾根が塔ノ岳まで連なっているのもわかるし富士山も当然見える。

 海も相模湾のこっち側広い範囲が見える。


「海が光っているの、なかなか思い通りに撮れないのですよ」

 未亜さんは相変わらず写真撮影に勤しんでいる。


「富士山も綺麗な色では撮れるのですが、その前に幾つも山が横に連なっている広がりの感覚が写真ではわからないのです。パノラマ写真も一応撮ってはいるのですが」


「まあそれは実際に来て見るしかないんじゃない」

「そうですね。来た人の特権でいいのではないでしょうか」


 そんな感じでひとしきり外で写真を撮ったり風景を見たりした後。

 休憩小屋に入ってザックを下ろしてアイゼンを外す。

 鍋や食器、バーナーや食材を出して昼食の準備だ。

 まだ9時前なので昼食には早いのだけれど、これも雰囲気。

 先生と亜里砂さんがそれぞれガソリンタイプのバーナーを出す。

 形はどっちもバーナーとガソリンボトルが分離しているタイプで、ボトルも同じメーカーだ。


「亜里砂さんのと同じメーカのバーナーです。炎の調整はしやすいのですけれど音がうるさいのでテント場で夜に使うのが憚られるんです」


 そう言って先生と亜里砂さんがポンプ押しを20回位した後、この前と同じジェル状着火剤を付けてプレヒートをする。

 その間に川俣先輩が鍋2個を用意。


 今日のメニューは炊き込み御飯とシチューだ。

 片方の鍋はタマネギ、トマト、ジャガイモを切ったものを敷き詰め、その上にあらかじめ分量を量って水に浸けておいた状態のお米をタッパーから水ごと入れる。

 もう片方は昨日煮込だ後出た油とゼラチンでそのまま固めた人参、タマネギ、鶏肉を入れ、適当に水をポリタンクから入れた。


「さて、火を付けますよ」

 まずは亜里砂さんがあのライターで自分のバーナーに着火。

 ぽっと一瞬炎が広がった後、正常に燃焼を始める。


 そして先生の方のバーナーも着火。

 こっちは火を付けると同時にゴーというジェットエンジンのような爆音がする。

 爆音と言っては言いすぎかもしれないけれど、結構な音量だ。


「確かにうるさいですね、これ」

「でも火が燃えている、という感じで楽しいのだ」


「近所迷惑だからテント山行には極力持って行かないんです」

「でもこういう時はいいですよね」


 そんな感じで15分ほど皆でバーナーを囲む。


「いつも思うのだけれど、先生はどうしてこの状態で鍋の中の御飯の状態がわかるのだ?」

 亜里砂さんがもっともな疑問をぶつける。


「慣れてくると水蒸気の蒸発する音で中の状態がわかるんです。水がぎりぎり無くなりそうだな、という感じになったら火から下ろして蒸らします。ちょうど今ですね」


 先生は鍋をバーナーからおろし、火を消す。

 一気に辺りが静かになった。

 そして亜里砂さんと彩香さん2人が首を捻っている。


「亜里砂、今の御飯の状態、わかった?」

「全くわからないのだ」

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