第342話 雪山登山の終わりに
マットを折りたたんで仕舞った後テントの外に出る。
テントも半ば凍り付いているのを何とかたたんで仕舞った。
「何か凍った分重いような気がします」
僕はテントの下に敷くシートをザックに入れている。
テント本体を持っている先生はもっと重く感じるだろう。
「でも帰りは楽ですよ。距離自体短いですしね」
実際そうだった。
もう足が雪になれているのでアイゼン無しでも普通に下りられる。
多少滑ってもそれなりにバランスを取れたりもする。
「これって尻餅をついた姿勢で一気に滑れば早いような気がするのだ」
「そういう下り方もありますよ。靴の裏で滑りながら下りる方法をグリセード、お尻で滑り降りるのをシリセードって言っています。ただこういう登山道でそれをやると、登る人が段差が無くなって大変になるんです。だからちゃんと歩きましょう」
そんな話をしながらどんどん下りる。
時々ちょうどいい枝があると誰かがピッケルで叩いて雪を落としたりもする。
舞う雪がきらきらしてやっぱり綺麗だ。
そんなこんなで休憩1回、2時間もしないうちに温泉まで辿り着いてしまった。
「温泉は車に荷物を置いて、着替えを持ってきてから入りますよ」
「全て了解なのだ!」
ああ、また3時間待たされるのか。
思わず僕はため息をついてしまう。
◇◇◇
温泉は僕が思った以上に良かった。
温泉そのものは大きい浴槽、小さい浴槽、それに打たせ湯があるだけ。
露天風呂はこの寒さなので当然無い。
でも木と石を組み合わせた凄くセンスのいい、いかにも山の湯という作りだ。
浴槽も熱めとぬるめがあり、さらに打たせ湯はじつは水で結構冷たい。
これを交互に入るとそれなりに時間も経つ。
入る前に、
「帰りの時間もあるので今から90分。午後一時に集合して下さいね」
と先生が指定。
でもそのうち1時間以上、ゆっくりと風呂を堪能してしまった。
しかもこの宿、剥製だのドライフラワーだの色々飾ってあったりして面白い。
こんな処に泊まるのも面白いかな、と思った位だ。
成分のせいか時間が経っても暖かい感じが続くし。
風呂がスーパー銭湯ほど広くないせいか、今回は亜里砂さんもしっかり時間を守ってくれた。
結果、俺も全然待たずにすんだ。
そんな訳で気分良く車に乗る。
◇◇◇
「皆さんはこの後の冬休みの予定はどうですか。私は実家の手伝いがあるので、28日から4日まで実家なのですけれど」
「私と未亜は実家です。4日までは色々行事がありますから」
美洋さんはちょっと大変そうだ。
「私は実家、と言っても縦浜のマンションに帰るだけなのだ。父が29日に帰ってくるので、頑張って残りの山用具もせしめてくるのだ」
おいおい。
でもふと気づく。
そう言えば亜里砂さん、お父さんの話ばかりでお母さんの話はしないな。
でもそれは聞かない方がいいのかな。
「僕は年末、30日に実家に帰って2日には戻ってこようかと思っています」
僕は特に親戚付き合いをするわけでも無いし、親しい友人がいる訳でも無い。
だから何か理由をつけてさっさと帰ってこようと思う。
「私は冬は寮に残留だな。彩香もか」
「うん」
「なら2人で年越しそばでも食べて、初日の出を見て初詣でも行こうぜ」
何かそっちに参加する方が実家にいるより楽しそうな気もする。
まあでも、帰らないとまずいだろうな。
車の中でそんな事を思いつつ、冬合宿は幕を閉じた。
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