第341話 本日のハイライト

「次は西天狗ですよ」


 目標は隣にそびえている白いなだらかな三角の山。

 先行している登山者は、僕らとおなじ黒百合ヒュッテから出たのだろうか。


「こういうところで大丈夫な道を通らないと雪崩を引き起こしたりするんですよ。雪が降っていたら下の地形がどんな感じかもわかりませんしね」

 そんな怖い事を聞きつつも順調に歩く。

 時々アイゼンにくっつく雪をピッケルで落としつつ。


「左側に見えるのが八ヶ岳の残り部分だよね」


「あっちが南八ヶ岳。手前から硫黄岳、横岳、赤岳、阿弥陀岳かな。横岳というのはあのぎざぎざ部分の事を言います。横岳はちょっと危ない場所が多いですけれど、硫黄岳や赤岳は雪が無い季節なら行けますよ」


「一番高いのはどれなのだ?」


「八ヶ岳では赤岳だな」


 そんな話をしながら白い雪の中付けられた道を歩いて行く。

 30分くらい歩いただろうか。

 一番高い場所に着いた。

 人が歩いて雪を踏み固めた跡の中に棒状の山名標が立っているだけ。

 でも360度回り全部が見渡せる。


「お疲れ様でした」

 先生がそう言って紅茶を出す。

 そして先輩以外は回りの風景に見とれている。


「回り全部山が見えるのだ」


「八ヶ岳の向こう部分がさっき以上にわかる」

「あのとんがったのが赤岳ですね。八ヶ岳で一番高い山。右のごっついのが阿弥陀岳。夏なら両方合わせて1泊2日で簡単に登れますよ」


「あっちは中央アルプスかな」

「多分八ヶ岳の他の山が邪魔して中央アルプスは見えないと思います。御嶽山あたりでしょうかね、あちらは」


「槍ヶ岳は形でわかるよな、独特で」


 勿論見えるのは山だけでは無い。

 こっち側は雲海が無くて、下までずっと見える感じだ。

 残念ながら山が邪魔して町までは見えないけれど。


 未亜さんがあちこちの方向を撮影しては嘆いている。

「この雄大な感じがまったく写らないのですよ」

「来た人しかわからない風景もある、それでいいだろう」

 そんな事を言いながら風景を堪能。


「さあ、残念ですけれどそろそろ戻りますよ」

「仕方ないのだ。寒くなってきたのだ」

 名残惜しいけれど引き返す。


 東天狗に登り返すところから分岐。

 頂上を通らないでぐるっと回るルート選択。

 更に途中の分岐を来た道と違う左側へ。

 1時間も歩かないうちになにか見覚えのある場所に出た。


「ここって夕日を見たところだよね」

「正解です」

 もう下に小屋が見えている。

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