第321話 帰りもやっぱり……

 朝は寒いけれど、何か凄くすがすがしい。

 何というか空気が本当に澄んでいて美味しい感じだ。


 そんな中、まだ火が僅かに残っていた薪ストーブに枝を放り込む。

 ちょっと煙くて何か懐かしい香りが広がって暖まる。


 完全に暖まったら朝食。

 フランスパンとインスタントスープと紅茶という簡素なメニューだ。

 食べ終わったら寝袋を畳んで、マットを丸めたり空気抜いたりして撤収準備。

 荷物をまとめた後、小屋備え付けの箒で掃除をする。


「今日で終わりなのが何か名残惜しいですね。一泊しただけなのに」

「場所がわかって遊び方がわかっていれば、また何時でも来れるさ」

「そうだね」


 そんな感じで、お掃除をした後。

 ストーブ内で燃えていた薪が燃え尽きたのを確認して出発だ。

 空気がまだまだばりっとする感じに冷たい。

 でも空が抜けるような青空で気持ちいい。


「霜が降りている」

「もうこの辺は寒いですからね」

 所々霜柱のざくざくというのを足で楽しみながらなだらかな尾根を下りていく。

 水や食料が大分抜けたのでザックも軽い。

 あのはしごや木道で急に登った処の手前で一度休んで、そして今度はあの急斜面を下りていく。


「微妙に凍っていて滑るのです」

「なかなか怖いのだ」

 とか言いながら一気に降りて、行きと同じように沢を入って滝のところへ。


 ちょうど光の加減が滝の正面に近い角度でいい感じ。

 朝日を浴びて輝くように水が落ちている。


「やっぱりこの滝、この高さとか綺麗さが良く撮れないのです」

 行きと同じように未亜さんが何枚も何枚もスマホで写真を撮っている。


「来年の部員獲得のためにも、いい写真が欲しいのですよ」

 何か既に先のことを色々考えている模様。

 風景は凄く綺麗なんだけれど、長居をすると結構寒い。

 持っている服を着込んだ状態で30分位滝の場所にいた後。

 名残惜しいけれど移動。


「ついでですからもう1つ滝を見てきましょうか」

 と先生が誘ったので、15分ほど歩いてもう一つの滝へ。

 こっちも大きい滝だけれど雰囲気が大分異なる。

 どちらかというと本棚よりもなだらかな感じで水流もちょっと細め。


「これもいい滝なのです」

 また未亜さんがカメラマン化する。


「写真だとこの高さが良くわからないので、滝ぎりぎりで立って欲しいのです」

 そんな訳で滝のすぐ近くまで。

 そんなこんなしつつ、こっちの滝でも30分使って。

 ここから驚くほど透明な水をたたえた渓谷沿いに30分歩いたら、もう駐車場だ。


「ここも楽しかったね」

「もっと寒くなると滝も凍るらしいですよ」

「それも見て見たいのだ」

 なんて言いながら、名残惜しいけれど車に乗る。


「また寒いうちにもう一度来るのだ!」

 そんな感じで今回の避難小屋初体験は幕を閉じた。


 なお、帰りにやっぱり日帰り温泉に寄ってしまった。

 そこでまたしても僕が待ちぼうけを食わされた。

 これもまあ予想内というか様式美と化しつつある。

 出来れば勘弁して欲しかったけれど、もう無理かな。

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