第307話 先輩として

 アイス休憩から40分くらい。

 途中鹿がいたり、富士山が見え隠れしたり。


 景色も今までより色々だんだん見えてきて。

 それを楽しみながら階段状の登山道を一気にのぼると。

 白い壁と赤い屋根が印象的な山小屋に到着した。

 回りは開けていていかにも見晴らしが良さそうだ。


「お疲れ。ここでちょっと景色を見て休もう」

 遠くに富士山が見える。

 見晴らしが良くて今登ってきた尾根の形も見える。


「いい感じで紅葉していますね」

「あの辺は海なのかな」

「ああ。小田原辺り。山頂まで行けばもっと綺麗に見える」

 そんな感じで風景を楽しんでいると。


「ねえ、小屋の売店ちょっとのぞいてこない」

「うーん、財布がちょっと不安なんだけどな」

「見るだけならただなのです」

「私も行くのだ」

「私も行きますね」

 そんな感じで先生と1年生女子4人で山小屋へ。

 何か皆さん、元気だ。


「何か皆さん復活してますね、体力」

「ここからはもう辛い場所は無いからさ、問題無い」

 先輩はそう言って椅子に伸びる。

 気を抜くと本当に何処でも寝てしまう人だ。

 一応休憩になってから防寒用にフリースを着ているけれど。


「それにしても先輩は、失礼だけれど1年先輩なだけなのに本当に色々知っていますね。僕らも来年にはそれ位は出来るようになるのかな」

「いいや、これでも実はまだ足りないと私自身は思っているんだ」


 えっ。

 先輩が意外な事を言う。


「これで足りないという事は無いでしょう。アドバイスを色々してもらっていますし、さっきのアイスもちょうどいい時で最高に美味しかったですし」


「私は料理は自信があるけれどさ、他はあまり飛び抜けて得意な事は無い。でも私には去年、5人の先輩がいて、それぞれ違う得意分野を持っていたんだ。


 例えば今日だって。あの先輩なら今目の前というか横に見える山の名前を全部教えてくれるだろうとか思うんだ。鹿が出た時に可愛いと同時にヒルの話なんかも出来たと思うんだ。


 他にも釣り専門とか、自転車と機械整備のマスターとか色々個性がいてさ。それこそ私が悠達に教えられた事の5倍以上、私は受け取っていた筈なんだ。

 でも今の私ではせいぜい体力管理に注意することと、料理食べ物関係を教えること。その程度しか出来ない。そういう意味では先輩としてまだまだの状態だな」


 厳しいなと思う。

 でも僕は思う。

 確かに先輩は5人の先輩がいて、それぞれ色々教わったのかもしれない。

 では僕らは5分の1しか色々教わっていないだろうか。

 答はすぐに出る。


「そんな事は無いですよ。それに先輩は凄く色々1年生のことをフォローしてくれているじゃ無いですか。こっちが何かに夢中になって他の事が出来ない時とか、思いつきで色々やっている時も。無人島の時もそうですし、文化祭だってこっちが暴走してあれもこれもやっているのをしっかりフォローしてくれたじゃないですか。

 さっきのアイスみたいなのを含めて、本当に叶わないな、と思います」

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