第296話 2人が里を嫌っている訳

「本当は色々3人に事情聴取をしたいところだけれどさ。まず、何時からいた?」

「当然、最初の私の失言の話からなのですよ」


 つまり最初からいたと。


「3人とも?」


「何となく一緒になったのだ」


 亜里砂さんの言葉に彩香さんも頷く。

「一緒に寮に帰ろうと思ったら2人で話をしていたから、つい」


 まあいつもの行動パターン的にそうだろうな、とは思う。

 美洋さんなり僕なり、なかなか出てこなかったりしたら気づくだろうなと。

 亜里砂さんは表層思考を普通に読めるし。


「ついでだから聞いてみよう。今回の文化祭の野遊び部の展示実演会、どうだったと思う。代表して亜里砂から」


「大成功なのだと思うのだ。確かに来てみるきっかけが美洋だった人が半分以上なのだ。でも美洋に関係なく来た人それぞれがそれなりに楽しんだり満足していたのは確かなのだ」


「ある意味弱小な課外活動なのでネームバリューが無いのですよ。それであれだけ来て貰えたのは良かったと思うのです」


「皆さん美味しそうに食べたり楽しそうに殻剥きしたりしていたしね」


 僕は頷く。

「だからうちの部は美洋さんのおかげで助かった事はあれ、困った事は無いしさ」


 僕がそう言ったところ。

 未亜さんが付け加える。


「あと美洋が気にしたのは色々背景があるのです。きっと今回顔を出した美洋のお父さんの事もきっかけとしてあるのです」


 そう言えばお昼に来たな。

 若いけれど出来る感じの人だったけれど。


「狐系は女系家族で、あの人も元々は外部の普通の人なのです。ただ、既に里にはなくてはならない1人として、五本家の一家として以上の存在になっているのです。里の主な産業は林業なのですが、じり貧一方だったのを建築会社や設計士事務所と組んで国産材住宅のブランドを作り、一気に儲かる産業にしてしまった人なのです」


「確かに出来る人の雰囲気はしたけれど、それにしては若そうに見えたけれど」


 僕の疑問には美洋さんが答えてくれる。

「うちの母の術のおかげよ。本当はあれでも40代前半」


 そうなのか。

 20代後半くらいに見えた。


「里では表だって父の悪口を言う人はいないです。取り入ろうとする人は大勢いますけれど。そのくせ影では色々言われているのは私だって知っています。よそ者が里の資源を使って目立つんじゃないって。実際、会社を乗っ取ろうとしてうちの家の料理に毒をしかけた事件もありました」


「私が気づいて未遂に終わったのですけれどね。

 そんな訳で美洋は里の閉鎖的かつそんな空気を嫌っているのです。ただ、美洋の父、雅彦さんの仕事のおかげで里が離散せずに維持出来ているのも事実なのです。それが無いと補助金を充てにしたじり貧の林業のみが産業の里なんて、とっくに離散しているのです。


 ただ、それを正当に評価できずにいる古い考えの人が多いのです。他の4つの本家なんて正にそうなのです。雅彦さんに仕事を回して貰ってなんとかやっているのに文句しか出てこない。でも自分で何か出来る才覚は全く無い。

 実際同じような事をやろうとして本家2つが身上を崩したのです。それにも懲りずに都合のいい小ずるい事ばかり今だ考えている。

 そんな里の空気を、美洋も私もは嫌っているのです」

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