第134話 本戦への道

そして後日、スターズ・トーナメント運営より以下の旨が通達された。


1,スターズ・トーナメント本戦の最終選考は、2次予選までの成績と学校別のランキングを考慮したトーナメント形式による試合形式の選抜に変更する。


2,全国200カ所で予選会を行い、各予選会場から1人の代表者を選抜する。なお、特定選手はシード選手として二回戦、三回戦からの参戦とする。


(3)なお一部の生徒に不正が行われた可能性が指摘された件に関しては、担当審査官による問題は見当たらなかったとの報告に基づき、3次予選への参加を認める。


全国の学校に纏めて通達されたこの文書。

なお3の項目については、隅の方に追加記載する形で記述してあった。

そしてこの文書に付属する形で、各予選会ごとのトーナメント表もある。


そして、山宮学園のレベル5専用校舎にて。

そこの一角にある大講義室に、2次予選までの予選通過者が集められていた。


なお、ここからは男女で分かれての予選会となる。

するとここで何処からともなく男性の声が響いてきた。


『諸君、まずは2次予選通過おめでとう』


空中に映し出される黒い画面。

顔は表示されていないが、そこには山宮学園の校章が映し出されている。


『山宮学園は勝利こそ全て。個人戦、団体戦、その両方で優勝以外の結果は未来永劫の恥であり、断じて受け入れられない結果だと受け止めなさい』


そう語る言葉の主は、山宮学園理事長だ。

入学式や卒業式などのイベントにも顔を見せない謎に包まれた人物であり、山宮学園の最高責任者でもある人物である。


大講義室は、大まかに3つの区画に分かれている。

真ん中は、八重樫慶や星野アンナを中心とした3年生。100人以上が3次予選まで残っており、最高学年の力を見せつける結果となっている。

そして右の方には2年生が集まっている。人数はおよそ70人ほどで、こちらも上位クラスのメンツはほ全員が残っている印象だ。


そして左にいるのは1年生。

上級生と比べると人数は少ないが、それでも50人近くいるのは流石といえる。


『急遽予選がトーナメント方式となりましたが、君たちにはさほど大きな問題ではないでしょう。諸君らの健闘を期待します』


プツッと音を立てて、途切れる回線。

激励というよりは、必要事項の確認。また『負けるなよ』という暗の圧力に近い様子だった。


すると、大講義室の前に八重樫が立つ。

マイクを手に取り、彼は部屋を見渡しながら話し始めた。


「突然ここに呼び出してしまい申し訳ない。だが急遽予選の内容が変わったことを加味し、2次予選を通過した全員にこれ以降の予選内容について説明しておきたいと思いここに招集した次第だ」


すると空中に予選の方式が詳細に書かれた図が映し出される。

男子の部と女子の部に分かれているそれは、男女それぞれ100カ所の予選会場が指定されて表示されている。


「男女合計全国200カ所で行われる予選会は、4次予選で想定されていた一対一の異能を用いた模擬戦と全く同じ内容。違う点はリーグ戦ではなくトーナメント方式で、勝ち抜きバトルになるということだ。なお各予選会場の割り振りは、過去のスターズ・トーナメントの戦績を参照して過去の本戦出場者がなるべく同じ会場にならないように、また同じ学校同士の潰し合いにならないような配慮がされている」


そして、そこにいる全員に配られるトーナメント用紙。

そこには、一予選会場あたりおよそ50人で構成されたトーナメント表がある。


早速周りの人とお互いに表を見比べたりしている一同。

ある人はライバルらしき人がいない会場になったことを喜んでかガッツポーズをし、またある人は強力な対抗馬を見つけて肩を落としたりしている。


「俊彦。お前はどうだ?」


「うええ⋯⋯昔の同級生と同じ予選会場になっちゃいました。気まずいです⋯⋯」


「へッ、俺は余裕だな。サクッと勝ち抜いてやるよ」


そんな会話が烈と俊彦の間で起こる。

また、教室の隅では凛と摩耶がトーナメント表を片手に話している。

なお凜の表情は借りてきた猫の如く硬直している。一応承認式の件はその後の一対一の話し合い(摩耶の一方的な説教)を受けたことで手打ちになっているのだが、未だに凜の中ではトラウマが根強く残っているようだ。


そして、後ろでは健吾と直人が表を見ていた。

しかし、どうもその表情は浮かない。


「僕、やっぱり辞退するよ。だって絶対あれは⋯⋯」


未だに残るボールの感触。

明らかに誰かの干渉を受けた感覚は、忘れようにも忘れられない。


「健吾。ここは、大人しく3次予選に進んでおいた方がいい」


「⋯⋯? どうして?」


しかし直人はそれを止めた。


「健吾のボールに細工をした人物は、健吾を守るためにそうした可能性がある」


「僕を守るため?」


直人はこう考えていた。

ドン・ファーザーの言葉を信用するのはリスクが高い。だが、彼が仮に直人の知らない予言の真実を知っていてそれを元に言葉通り『若い才能を守るために』行動しているなら、むしろそれに従った方がいい。ここで下手に動けばむしろ危険な正体不明の『女』に攻撃を受けるリスクを増大させる可能性がある、と。


「それに辞退すれば、悪意を持っている先輩たちがそれを理由に健吾を攻撃する可能性もある。自分を守るためにも、ここは参加しよう」


「うん⋯⋯分かった」


そう呟くように言う健吾を見て、視線をトーナメント表に移す直人。

直人が順当に勝ち進めば、2回戦で早速本戦出場経験者に当たることになっていた。


「健吾は、どうだ?」


「うーん、分かんないよ。僕は他の学校の人に詳しくないし⋯⋯」


健吾の最初の相手は全くの無名だ。

学校も一般校出身で、名前は蔵王ざおう戒坐かいざと書いてある。


すると、後ろから夏美がやって来た。


「若山さんはどう?」


「順当にいけば、決勝で瑛星学園の酒井という人に当たるわね」


すると夏美の持つトーナメント表の過去の本戦出場経験者をしめす第一シードの所に『酒井瀬奈』と書いてある。


「私はベストを尽くすだけよ。じゃ、帰るわ」


そう言って、早くも講義室を後にする夏美。

彼女にとっては相手が誰であるということは興味がないのかもしれない。


流石に同じ学校の潰し合いはないように調整されたようで、本当に運の悪いごく一部の生徒以外はそうならないようになっているようだ。


とはいえ、直人も3次予選まで付き合う気はない。ジャンヌの介入によってここまで残ってしまっただけで、本来彼はここに居ないはずなのだから。

初戦であっさりと負けて、大人しく帰ろう。そんなことを思う直人。


だが、直人はここで気付く。

もしかしたら、自分はその『運の悪い生徒』に入っているかもしれないと。

己の手に握られたトーナメント表の第一シードには⋯⋯⋯


「葉島。お前がここに残っているのは、不思議と意外には思わないな」


直人の後ろから声がする。

振り返るとそこには八重樫がいた。


「勝負は時の運という言葉がある。お前はそれを信じるか?」


「いえ、全く信じていません」


「何故だ? 言ってみろ」


すると直人は言った。


「運という不確定要素に勝敗を左右されるのは、己の未熟を晒しているのと同義だからです。力があれば運に結果を左右されることはありません。それに実力があるなら、運に左右されるような不安定な勝負に挑む必要もないですから」


すると八重樫は、直人の方にポンと手を置きながら言う。


「成程。では葉島は、自分が運に左右されないだけの力があると思うか?」


「いえ思いません。自分はまだ未熟ですから」


顔色一つ変えず、そう言い切る直人。

対して、鋭い視線を直人に向ける八重樫。


「勝負は二日後。用意された席は一つだけ。どちらが勝とうと恨むのは無しだ」


直人の手に握られたトーナメント表の第一シード。

順当に決勝まで勝ち進めば直面するであろう相手の名前。

そこには、八重樫慶と書かれていた。


「俺はお前の本当の顔が見たいと思っている。だから本気でかかってこい葉島直人。

お前の内に秘める真の姿を、俺に見せてくれ」


そして、八重樫は3年生の一団へと戻っていった。

直人に明確なメッセージを残した彼の真意は何なのだろうか。


「葉島君、団長と同じ予選会場になっちゃったの!?」


「ああ。そうみたいだな」


「その⋯⋯うん。頑張って」


やっとのことで捻り出したような健吾の言葉を聞きながら、遠く見える八重樫の姿を眺める直人。


もしかしたら、八重樫は直人の非凡さに気付き始めているのかもしれない。

ならば直人はどうすればよいのだろう。早期に敗退してしまえば八重樫と戦う必要性は無くなるし、そうするのがベストかもしれない。


が、それは本当に今為すべきことなのだろうか。

明確な挑戦の意志を示した男に対して、挑戦状を破り捨てるのは強者の成すべきことなのだろうか。直人は、自分の立場を分かってるが故にほんの一瞬だけ迷う。


しかしすぐに、彼は結論を出した。


「健吾。俺、本気マジでやる」


「えっ?」


「本気で戦うよ。団長と」


直人は、真っ向から戦う道を選んだ。

だがそれは内に秘めるもう一人の存在、世界最強の男としてではない。


山宮学園レべル1クラスの葉島直人として、彼は山宮最強と戦うことを決めた。

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