第29話 暗闇と襲撃

「使えた⋯⋯電撃烈波が使えた!」


そういうのは、自分のしたことが信じられないとばかりに驚愕の表情を浮かべる前田友則ことトモだ。

突然暴走し始めた同級生を止めるために彼が放った異能は、B級クラスの上位能力である電撃烈波。前の実戦では使えなかった力を彼は遂に手に入れたのだった。


「前田先輩、先程は助けて頂きありがとうございました。先日の非礼も合わせて深くお詫びいたします」


そう言って頭を下げるのは雅樹だ。

どうやら彼らのことは雅樹もよく覚えていたようで、それに合わせるように摩耶も頭を下げている。


「おいおいアイツらが頭を下げるなんて、明日は雪でも降るのか?」


その様子を見ていた烈は、後ろの俊彦に尋ねた。

俊彦もこうなった経緯は良く知らないため、軽く頭を捻りながらその様子を眺めている。

トモの方は「いいよ、そこまで謝らなくても⋯⋯」とばかりに困惑気味で二人を止めている。だが何より困惑しているのは二人の警護に来たと見えるボディーガードたちのようだった。


「あのお二人が頭を下げるなんて、御当主様が御覧になったらなんとおっしゃるか⋯⋯」


「全く⋯⋯雅樹様と摩耶様のご判断とはいえ、名家の品格を下げるようなことは止めて頂きたいものだ」


するとここで、烈、俊彦、直人の三人の前に一人の男子生徒が現れる。


「まあ、あの子たちが謝りたいなら謝ればいいと思うんだけどな。流石に名家の看板背負ってると好き勝手出来ないんだろうね」


現れたのは、生徒会連合団員の海野修也だった。

体調不良からようやく回復した最中の一大事に彼も忙しそうだが、合宿初日にはいなかった新顔二人に興味があるようで、特に烈に対しては早くも強い関心を隠せずにいるようだ。


「ええっと、目黒君と仁王子君だったよね? 俺のことは知ってるかな?」


「知らねえ。誰だお前」


「ちょ、ちょっと仁王子さん! この人は生徒会連合団員の海野先輩ですよ!」


「そうかよ、じゃあ強いのか?」


無作法な反応だが、むしろ修也は満足げなようだ。

軽くうんうんと頷くと、口を開く。


「今年の一年は近年稀に見る逸材揃いって聞いてたから楽しみにしてたけど、期待を裏切らないでくれて良かったよ。『魔眼使い』に天性の『A級能力保持者』なんて普通ならそう簡単に出会えるものじゃないんだけどね」


すると修也は少し離れたところにいる雅樹と摩耶にも目を向ける。


「あの二人はもう生徒会入りは決定してるけど、ラスト一枠がまだ決まってないんだよ。折角だし、仁王子君にやってもらおうかな⋯⋯なんてね」


「俺は死んでも御免だぜ。だったらそこの暇な奴にやってもらえばいいだろうがよ」


「ひ、暇な奴って僕のことですか!? でもだって僕は⋯⋯⋯」


「目黒君は例の一件で上からストップが掛かっちゃってね。でも、生徒会団員は無理でも、『代理補佐』なら丁度空きが出そうだから君を選ぼうかと思ってるよ」


代理補佐とは、生徒会の仕事を裏で支える裏方のような役回りで、生徒会に次ぐ学校の運営組織に位置する役職だ。生徒会に比べると地味な役回りになりがちだが、他校との交流や事務仕事などを行うことの多い、学校に欠かせない仕事である。因みに、代理補佐のトップは生徒会書記の元木桃子だ。


「まあ、君たちに関しては何らかの要職に就く可能性が高いから、それだけ伝えておくよ。それと⋯⋯⋯」


すると修也が烈に近づくと言った。


「君は、ウチの広報委員長が相当気に入ってるみたいだからいずれはまた話をする機会があるかもね。その時には、存分に君の実力を見せてもらうよ」


そんな言葉を残して、修也は去っていった。

フレンドリーな彼にしては珍しく、どことなく含みのあるような様子だ。


「何だアイツ? 俺をバカにしてんのか?」


「そ、そんな悪意はないと思いますけど⋯⋯でも、光城さんと榊原さんの生徒会入りがもう決定していたなんてやっぱりあのお二人は流石ですね」


「良く分からねえけどよ、ところで例の一件ってなんだよ。お前なんかやらかしたのか?」


ギクッ、と顔が強張る俊彦。

そういえば烈はまだ魔眼暴走事件のことを知らないのだった。


「い、いや、あの、それは⋯⋯⋯」


「何だよ、もったいぶらずに言えよ。それとも⋯⋯」


と、その時だった。

突然、建物の電気が突然消えた。


「⋯⋯!? 一体⋯⋯?」


そんな俊彦の呟きの中、建物の外からDH達の叫び声が聞こえて来た。


「襲撃だっ!! 仲間がもう何人かやられている!!」


「そんなバカな!! 敵なんて全く見えないぞ!?」


「DBにエネルギーを吸われた痕跡があるだろ! 敵はすぐそこまで来ているんだよ!!」


そんな叫び声の後、遠くから断末魔のような叫び声が聞こえてくる。

脅威がすぐそこまで迫ってきている。それが伝わってくる。


「ま、また何か来たんですか!? しかもかなり危なそうな様子ですよ!」


「おうおう、面白いじゃねえか。丁度エネルギーが有り余って暴れ足りねえと思ってたところだ。よし! 行くぞ俊彦!!」


「い、い、い、行くってまさかDBを倒しに行くってことですか!?」


「当たり前だろコノヤロウが! テメエも魔眼使いなら仕事の一つや二つするくらいどうってことないだろ!」


「な、な、直人さんも何か言ってくださいよ⋯⋯ってアレ?」


だが助けを求めた先には誰もいない。

直人はまたしても姿を消していた。


「チッ、抜け駆けかよ。早く行くぞ、またアイツに負けんのは御免だぜ!」


「そんなあああああ!!」


小柄な俊彦を平然と抱え上げると、烈は窓から建物外に飛び降りた。

二人が消えていった暗闇の向こうからは、俊彦の泣き声とDBの呻き声のようなものが聞こえて来たが、それが何によって引き起こされたものかは彼らのみ知る話である。


そしてその様子を見ていたのは、雅樹と摩耶の二人。

彼らは視覚を操る技術に長けており、暗闇の中でも暗視能力を使って瞬時に状況を判断することが出来ていた。


「大変だ⋯⋯このままじゃ二人が危ない!」


「俊彦は兎も角、あの仁王子君がこの程度のことで危険に晒されるとは思わないわ。襲撃してきているDBもそれほど強いエネルギーの波長は感じないし、もういっそ、好きに暴れさせてあげたらいいんじゃないかしら」


「そんなこと言ったって⋯⋯⋯」


危機感を覚える雅樹と対称的に、さほど心配していない様子の摩耶。

するとここで、榊原家専属の従者が一人、大慌てで二人のもとにやって来た。


「お二人共、今すぐお逃げください! もしものことがあっては⋯⋯⋯」


だがしかし、それを見た摩耶は眉を顰める。

過保護な従者のやり方が癪に障ったのだろう。彼女は一喝する。


「黙りなさい。私はここに残ると決めています。私に指図をしたくば⋯⋯⋯」


と、その時である。


「指示をしたくば? 私に抜け駆けして何を面白そうなことをしているのかしら」


従者の体がゆっくりと倒れる。

力無く崩れ落ちていく従者の後ろから、現れたのは⋯⋯⋯


「表が随分騒がしいから何をしているのかと思ったら、こんなに楽しそうな『お祭り』をしていたなんてね。抜け駆けなんてさせないわよ。私を止めようとする鬱陶しいポンコツボディーガード達は皆おねんねしてもらったわ」


暗闇の中でもはっきりと分かる、今までにないほどの生き生きとした表情を浮かべている一人の少女。

その後ろからはこれまたはっきりと分かるほどに血相を変えた少年がいる。


「若山さん⋯⋯これ僕たちヤバいんじゃ⋯⋯⋯」


「なら来なければいいじゃない。何で来たのよ」


「そのまま残ったら、入ってきたDBに殺されるかもしれないと思ったんだよ! 榊原家の関係者を皆気絶させて、こんなの停学じゃ済まないよ⋯⋯⋯」


若山夏美と中村健吾の二人だった。

彼らは別室で守られていたはずなのだが、どうやら脱走してきたらしい。


「⋯⋯やってくれたわね」


「だったら何? DBと戦う前に私と戦う?」


もうダメだとばかりに、天を仰ぐ健吾。

従者を軒並みKOされた摩耶は、見てわかる怒気を放っている。

だが一か八かか、ここで口を開いたのは雅樹だった。


「若山さんは相当な戦力になる。僕たちが『戦う』うえでは欠かせないよ」


「⋯⋯⋯!! 光城君、まさかこの女と組んでDBと戦う気!?」


「そうだ。増援が来るまでは時間がかかるし、先輩方もまだ実戦に慣れていない人が殆どだ。なら、DBに対抗できるのは僕らと生徒会の先輩方、後は仁王子君たちと直人君くらいしかいないよ」


「正気なのかしら。私はこんな奴に背中を任せるなんて死んでもイヤよ」


「でもやるしかないよ! このままでは⋯⋯⋯!!」


DBの一団は確実に近づいてきている。

そして他の生徒たちは完全に怯え切っている上に、他のDH達も軒並み苦戦している様子だ。敵の正体も分からない状態では非常にリスクが高いが、ここに留まり続けていては間違いなく『やられる』だろう。


「⋯⋯言いたいことは山ほどあるわ。でも、ここは光城君に従いましょう。でも一つ条件を付けさせて頂戴」


すると摩耶は夏美をキツイ視線で睨みつける。


「私の背中は光城君に預けるわ。この女は私の半径100メートル圏内には絶対に近づけないで」


雅樹はゆっくりと頷いた。

それを見た摩耶は軽く溜息をつくと、ポケットから何かを取り出した。


「遂に使うんだね。異能具を」


「私は本気で行くわよ。光城君も気を抜かないことね」


それは扇子のような形をした道具だ。

これは摩耶のために特別にカスタマイズされた逸品で、世界に一つしかないオーダーメイドの異能具である。これを使うことによって、彼女の力は『公開されている』能力よりも更に多くの力を使うことが可能になる。


「若山さんに関しては自己責任だよ。万が一のことがあっても僕らは優先して助けることは出来ないから気をつけて」


「あら私が貴方たちに頼るような人間に見えるのかしら。言われなくてもそうするつもりよ」


すると雅樹は健吾の方に向き直った。

健吾を見る彼の眼は、普段の柔らかく穏やかな様子とは違う。


「お前は残れ。居ても邪魔なだけだ」


「⋯⋯分かった」


その言葉からは、強い緊張感が感じられる。

だが二人共これ以上は何も言わず、お互いに背を向けた。

全員の考えの共有が終わったところで、雅樹、摩耶、夏美の三人は、

数多のDBがいるであろう暗闇の彼方へと目を向ける。

そして手に持つ扇子を開き、摩耶は静かに言った。


「お掃除の時間よ。手早く済ませましょう」

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