第16話 事件の匂い

ここは、山宮学園から少し離れたとある町の一角。


「汚い場所ね。本当にあの伝説の人について知っている人がいるの?」

「うーん、僕も一度は会ってみたいんだけど・・・俄かには信じられないな」

「そ、そんなこと僕に言われても・・・直人さんも何か言ってください!」

「知ってるよ。きっと」

「き、きっとじゃダメなんですよお!」


そこに佇む、四人の人影がいた。

一人は葉島直人、その横には目黒俊彦がいる。

だが、異彩を放ちまくっているのはその更に横にいる二人だった。


「貴方が言った言葉を信じてここまで来たのよ?分かっているのでしょうね俊彦」

「そ、そ、そ、そんなこと言われてもお・・・・・」


ここは多くのDHが情報収集に訪れる、知る人ぞ知るバー『フォールナイト』の前。

実はこの場所は、現在直人が住んでいる例のバーである。


そして、完全に委縮している俊彦の横にいるのは、光城雅樹と榊原摩耶の二人だった。


何故、この4人が小汚いバーの前で立っているのか。

それは少し前の話に遡る。



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彼の携帯が鳴ったのは、授業が終わった夕方のことだった。


『直人君? アタシだよ、ちょっと用があるから帰ってきてくれない?』


直人の携帯に電話をかけたのは、現在同居中のマキだった。


「何の用ですか。僕、まだ学校なんですけど」

『じゃあ、むしろ都合がいいよ。アンタのとこの皇帝様を連れて今すぐウチに帰って来てくれないかい?』

「皇帝様って・・・光城とかいう人のことですか?」


すると、ピコンという音と共に直人が付けていたブレスレットが赤く光った。

その小さなディスプレイには、ご丁寧にバーの住所が書いてある。

だが、見ず知らずの光城雅樹を連れてこいというマキの無茶ぶりの方が直人にとっては深刻な話だった。


「ムリですよそんなの。 大体何でそんなことしなきゃいけないんですか」

『直人君を見込んでのミッションだよ。そういうの得意でしょ』

「いや、苦手ですね。てか、やりたくないです」

『皇帝君が無理なら、舞姫ちゃんでもいいよ。取り敢えず、そこそこ出来そうな人を連れてきてくれないかい?』

「ムリです。僕は友達少ないので」


悲しいセリフを飄々と言ってのける直人。

だが、残念なことにそれは事実だった。


入学式から一か月近く経ち、クラス内での振る舞いや学年全体の流れも徐々に決まったスタイルが確立されつつあった。

1-5クラスでは、健吾を中心とした輪の中に、クラス内では突出した実力を持つ夏美が自由奔放に動き回るような感じだ。

例の魔眼事件以降、特殊訓練は延期されてしまっているが、その時の縁もあってか健吾とは親しい間柄になっている。後は、席も近く同じAクラスの向井新と話すことが多いくらいか。


しかしながら、言い方を変えるとその他のメンツとは赤の他人と言っても過言ではないほどに疎遠な状態なのだ。


『でも、最近レベル5の人と仲良くなったって言ってたじゃない。なら、その人を連れてきてくれてもいいんだよ?』

「ああ・・・・その人は・・・・」


と言ってる最中、例のその人が直人の後ろからやって来た。


「直人さん! 今日は一緒に帰れますか?」


そう、目黒俊彦だ。

補講授業のためにレベル5専用校舎を離れ、こちらの一般校舎に来ていた彼だったが、その時に直人や健吾と出会い事件の縁もあって仲良くなってしまったのだ。

特に、B級DBに臆せず立ち向かっていた夏美に対しては崇拝にも近い状態になっているらしく、どうやら直人と健吾もその余波で微妙に尊敬された間柄になっている。

最近は一般校舎に用があることが多いらしく、そのこともあって話す機会が多いのだ。


『ああ、そこにいるのが最近噂の目黒俊彦君?』

「あれ? 何か声が聞こえるなあ・・・・」


直人は、俊彦の鼻先にブレスレットを突き付けた。


『あら、カワイイじゃない。一緒にそのコも連れて来なさいよ』

「え? え?」

「惑わせるようなこと言わないでください。それより、何でわざわざあの人たちを連れて行かなきゃいけないんですか?」


すると、マキのトーンが一段階下がった。


『ちょっと、面倒なことになってきてるのよ。ほら、ウチのバーが情報屋みたいになってるのは知ってるでしょ? そうしたら、ウチの噂を何処で聞いたのか知らないけど、変なヤツが上がりこんでテコでも動かないのよね。名前は知らないけど、もの凄く大きくてヤバい雰囲気出してるから、出来れば追い払ってほしいの。山宮の制服着てたから、アンタらの大将連れて行けばどうにかなるんじゃないかと思ってたんだけどね』


「そんなのマキさんがやればいいじゃないですか・・・・・」


『乙女にデカブツゴリラの相手をしろっていうのかい? 嫌だね、そこは白馬の騎士様に助けてほしいって思うのが女ってものだよ』


「ハイハイ、そんなこと言ってるから・・・・」


結婚できないんですよ、までは聞かずにマキは電話を切ってしまった。


「・・・で、どうやったら光城雅樹を連れていけるのかな?」


取り敢えず、直人は俊彦に聞いてみる。

だが、俊彦は全く分からない、とでも言うように首を振った。


「僕も良くは知らないですけど、光城さんってすごく忙しいらしくて学校終わった後もいろいろな所に行ったりしているらしいです。多分、榊原さんも同じだと思います・・・・」


つまり、見ず知らずの人間の話をあっさり聞いてくれるような人間ではないということだ。


「じゃあ、無理だな。仕方ないし、マキさんには後で土下座するか・・・・」


そう言って、再びブレスレットの電源を入れようとしたその時だった。


「でも、お二人って臥龍さんにすごい憧れてるらしいですよ。臥龍さんに会える、とか言えば来てくれるかもしれないけど・・・それは無理ですよね」


直人の動きがピタッと止まる。


「・・・・それマジ?」

「え? いや、多分ですけど・・・・・」


直人は早くも猛スピードで電話番号を打ち込んでいる。

最近、某ルートから仕入れた光城家と榊原家の電話番号だ。


「よし、じゃあそれでいこう」

「え!? え!? えええええええええええ!?」

「大丈夫。マキさんならきっと臥龍のことは知ってるから」

「で、で、でも知らなかったら僕、あの人たちに嘘つくことに・・・」


これ以上は何も言わせぬ、とばかりに直人は手に持っていたブレスレットを

俊彦に投げ渡した。


その後、『臥龍について有力な情報を手に入れた』と光城雅樹、榊原摩耶の両者に連絡を入れたところ、まさかの両者ともにOKのサインが出てしまった。


「あああああああ、どうするんですか!! 嘘だったら僕殺されちゃいます!!」

「大丈夫だって。嘘じゃないから」


嘘ではない。ただし、本当のことは言えない。

実はの所、これはある種の賭けだった。

マキは桁違いの明晰な頭脳がある一方で、あまり器用な人間ではない。


(頼みますよマキさん・・・『口を滑らせたり』しないでくださいよ)


全てを知っている直人にとっては、それが何よりも怖い話だった。

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