二人の沈没者
2/3 inブッダガヤ
夜中に目が覚める。昼寝したせいか、目がさえて寝つけない。ハシシをチラムで吸い、日記を書く。日記はためると面倒なことになる。それに、気分がのらないと書く気がしない。区切りのいいとこで終わらせ、明け方前に眠る。
3時間後に目を覚ます。一服して日記の続きを書く。書いてから外にメシを食べに行く。宿から食事ができるところまで離れているので面倒くさい。
チベタンの食堂で朝食を食べて宿に戻る。それにしても蚊が多い! そこらじゅうを飛びまわり、たたき落としきれない数だ。
部屋に戻り続きの日記を書く。たくさんたまった日記もだいぶ終わる。
昼を過ぎ、やることもなくなったので町を見学する。ガイドブックにはたくさんのお寺が掲載されている。町にいるチベタンの尋常じゃない数を見ると、ここがどれだけ有名な場所だと、なんとなくわかる。
半そでで過ごせるのはいついらいだ? 暖かくて春のにおいがする。昨日の夜に行ったネットカフェのほうへ歩く。何もない町かと思ったけど、大通りにはたくさんのお土産屋がある。本屋があり、外においてあるベンチには日本人が座っている。気になるので中に入って本を見る。
まずい! カトマンズの二の舞になる! 気をつけなきゃ。品数は多くないので助かる。外にいる日本人が店内に入ってきて、チャイをすすめてくる。ああ、働いているんだ。ありがたくチャイをお願いする。品数は少ないけど、おもしろそうな本が何冊かある。名古屋のヴィレッジヴァンガードで見たことのある“アルケミスト”、なぜか気になる本だ。交換もできそうだし、良い店かもしれない。
ひととおりチェックして、近くにある日本寺を見に行く。インドに日本の寺があるとは、ここはいろいろな仏教の聖地なのかもしれない。しかし、仏教にほとんど関心がない自分には、良さはわからない。外から眺めてすぐに立ち去る。
先ほどの本屋に戻り、考えた作戦を実行する。読みたい本のなかで、大きい本は立ち読みして終わらせよう。坊主頭の店員に立ち読みしていいかと訊ねると、オーケーサインがでる。ベンチに座り、“ビートたけしの本”を読む。よし、部屋に戻ったら、読み終えた本を持ってこよう。そうすれば読みたい本が安く読める。
熱中して本を読んでいると、“レディボーイ”らしきタイ人がやってくる。どうやら日本人に言葉を教わっているらしい。持っている手紙を見せてもらうと、形式は間違っていないしっかりした文章だ。外国人には上出来だ。うーん、がんばっているな。
忙しそうに働く日本人を尻目に、ひたすら本を読み続ける。“キリスト”のような風貌の外国人と、“ジャッカス”のスティーボーに似た外国人が同じテーブルにつく。二人とも違った人種なのに楽しそうにじゃれあっている。本を読み続けているとジョイントがまわってくる。いただきます!
ジョイントを吸いながら、お礼に自分の持っている大麻を巻く。“スティーボー”がロングのリズラーを欲しそうなのでショートと交換する。お礼に大麻を少しわけてもらう。子供みたいに無邪気にじゃれあう外国人は見ていて楽しいな。再び本を読み続ける。
二人の外国人はヴァラナシに行くのでお別れする。相変わらず日本人は忙しそうに動きまわっている。
5時が過ぎた頃、落ち着いた日本人がテーブルにつき、話をする。2ヶ月以上インドにいるらしい。すごく親切で良い人だ。けど、どことなく大理にいた怪獣、ごろうさんに似ている。ボランティアでお店を手伝っているらしい。沈没者は共通の特長がある。
何度もチャイをごちそうになり、本を読み続けていると、日本人が次々と集まってくる。長髪の男の人は、少し老けた女の人と一緒にお店を手伝っている。鼻の高い男の人はイスに座って瞑想している。あきらかにおかしい。“ちょびひげ”の男の人は旅行が初めで、22歳と若い。けど、外見は胡散臭いおっさんのようにも見える。今は何もかもが新鮮で楽しいらしい。
坊主頭のゆうじ君が、今日は節分なので豆まきをすると言っている。毎年日本で豆まきしていたのか? そうであれば納得いくけど、日本でやらずに海外でやるのだったらおかしい。女性が豆を買ってきて、みんなで豆まきに盛りあがっている。
はっきり言ってやることがくさい。豆まき? そう思いながらも、一緒に参加してしまう自分が一番どうしようもない。
豆まきを終え、食事をとるらしく、いろいろなところから食材が集まる。長髪の男の人は手のひらをまな板に使って野菜を切り、生でかじっている。鼻の高い人もベジタリアンと言っている。“ここ”にいるとそうなるのか? 野菜は安いし、新鮮でおいしいから良いことだ。
女性が日本からみそを持ってきたらしく、野菜と卵をいれて味噌汁を作る。味噌汁をいただくのは久しぶりだ。あらためて自分が日本人だと感じる。
味噌汁は出来上がり、食事が始まる。しかし、自分が“ここ”にいてもいいのかな? つい、気を使ってしまう。食事しながら会話をする。
ぶりっているせいか、それとも頭が痛いせいか、みんなとうまく会話ができない。大勢の人と食事をすると、一人一人に関心がとどかなくなる。
海外の旅行先で沈没した日本人とお客さん。二人の店員は自分にあまり関心がないように思える。しかし、自分は二人の沈没者に関心がいってしまう。移動し続けている自分は、沈没者に対してあまり良い印象がもてない。“坊主頭”に日本に帰りたくならないか聞くと、「いつでも帰れるじゃん!」えっ! なにその答え!
たしかにその通りだ。いつでも帰れるからさびしくない。楽しそうに生活している姿は、半日店にいたからよくわかる。そっか、楽しいから気にしないのかも。けど、人をバカにしたような返事はないんじゃない? しかも、答えになっていない。
うーん、まともな答えがないと聞きにくいし、腹が立つ。ジョイントを巻いて気をまぎらわす。みんなが吸うかもしれないので3本巻く。見えているはずなのに、誰もそのことについてつっこんでこない。おもい空気がただよう。“ここ”はなんなんだ?
トイレに行き、戻ってくるとみんなが大麻の話題で盛りあがっている。“ここ”にいる自分以外の人は吸わないみたいだ。それに、以前は吸っていたけど、今は必要ないらしい。ああ、そう。なんか気にくわない。みんな自分の存在に対してあきらかに迷惑している。まあ、そんな気がしていたけど。一人でジョイントを吸い、とばされる。
あまり会話が盛りあがらない。出来上がった味噌汁は美味しいけど、みんな大騒ぎしすぎだ。なんか、みんなを見ていて自分が惨めに思えてくる。
9時ぐらいになり、解散する。頭はそうとう痛く、ふらふら状態。部屋に戻り一服して眠る。
今日わかったこと。沈没している人は好きだけど、ただで店を手伝い、大きな顔をしている日本人は嫌い。はっきりした理由があるならいいけど、ただ日本に戻りたくないみたいな理由はとくに。長髪の人は嫌いじゃないけど、“坊主頭”の日本人は、はっきりいって日本から逃げているようにしか思えない。なんか、それを隠しているように見える。
ようするにあの“坊主頭”が嫌いなんだ。生理的に嫌いな人に会うのは本当に久しぶりだ。
ベトナムのサイゴンセンターにいた日本人と同じ“におい”がする。しかし、じんぼさんは同じ沈没者でも違う。あの人は沈没する明確な理由がある。
今日は体調悪く、少しおかしい。うーん、なんだろう?
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