疑心暗鬼
1/18 シガツェ→ダム
起きる予定の7時半ちょうどに目を覚ます。偶然にしてはすごいぞ。がっ、腹の調子が良くない。トイレに入りうん○をすると、またか! ゲリが勢いよくでる。痛みはないが、波(便通)がくるたびに水がでる。よりによって出発前にゲリがでるとは、、、 だせるだけだし、“ビヨフェルミン下痢止め”を飲む。トイレで時間をくってしまったので、急いで身支度をする。たつさんが呼びに来るので、さらに急ぐ。チェックアウトして一緒にバスターミナルへ行く。
ネパールとの国境の町、ダム行のチケットを買おうと窓口でたずねると、チケットはないらしく、「ここで待て!」のジェスチャーをされる。たつさんはラサに戻るのでここでお別れする。短い間だったけどすばらしい人に会えた。アドレスを交換し、お別れする。
10分程経つと、一人の人民おばちゃんがやってくる。“***”という町の漢字が読めなかったので、漢字で書いてある紙を見せると、おばちゃんは「うんうん」とうなずく。値段は500元で、高いけど他に手段はしらない。もちろん了解する。おばちゃんについていき、ミニバスに乗り込む。車内は当たり前のように定員オーバーだ。
よし、これで国境まで行ける。隠れて一服をいれて準備万端。ミニバスは出発する。
道はすぐに舗装されていない道へかわり、山間の高原をひたすら走り続ける。スピードを出すので砂埃がひどい。すきまから車内へしんにゅうし、砂埃臭い。マスクを買っておけばよかった。
窓はスモークがかかっているので、外の景色がきれいに見れない。それに、いくらすごい景色でも似た景色がつづくと飽きてしまう。カラカラに乾燥していて、氷はガチガチ、風はうなるように声をあげる、完全な砂漠だ。こういう砂漠もあるんだ。
ラッツェをあっという間に越え、さらに進む。途中でチベタンが乗り、車内はすし詰め状態だ。タバコをへいきで車内で吸うから、こもって臭すぎる。途中のゲートを抜けるのに、チベタン達が隠れるのに協力してくれる。もうチベットを抜けるだけだから、嫌なドキドキ感はそれほどない。
バスのスピードが速いのでとにかく揺れる。シェムリアップへの道ぐらい揺れて、容赦なく砂埃がはいる。それにタバコ臭く、道がくねくねしている。休憩はほとんどなく、いがいに過酷な移動だ。
ティンリを越えると道が直線と左に分かれている。てっきり左に曲がると思いきや、真っ直ぐに進む。あれ? 世界地図を見てかきうつした自分の地図を見ると、ティンリをこえた後、南西に進むとカトマンズに着くはず。しかし、バスはあきらかに北西に進んでいる。西に沈む太陽が左に見える。まて! このバスはどこへ向かっている? 自分が持っている紙は“***”と書いてあるが、このバスにはシガツェ→“**”と漢字が違う。もしかして、おばちゃんは適当にこたえて自分を乗せたのか? 人民は適当だからじゅうぶんありえる。
そう考えると500元というのも高すぎる気がする。ジョンディエンからラサまでが580元、ラサからカトマンズが580元、そんなに距離はないはずなのに、それに近い料金だ。もしかしてカイラスのほうへ向かっている? もし、そうだとしたらバスを降りてすぐにひき返さないと。だけど、外は強烈な風が吹き荒れる砂漠だ。夜になったら死んでしまう。降りることもできず、じっとしていられなく、あせってしまう。まわりのチベタンにたずねるが言葉が通じない。次の休憩場所で降りることにする。
ところがなかなか休憩しない。休まず走り続けている。こうなったら仕方がない、別の場所についてもう一泊して楽しもう。そう思うが、思いきれずに心配してしまう。こんなにへたれだとは思いもしなかった。東みきひさ似のチベタンは「大丈夫」みたいなことを言ってくれるけど、安心できない。
ようやく宿場町みたいなところでミニバスは停まる。おばちゃんとドライバーのおっちゃんに「カトマンズ?」とたずねると、「うんうん」と、大丈夫らしい。本当? 疑っていた自分が馬鹿みたいだ、一人で勝手に思い込んで心配していた。
メシを食べ、車は出発する。おばちゃんを信じることにして、気分は落ち着く。しだいにミニバスは山を登り、南西へ向かう。遠くには白い峰のヒマラヤ山脈が見えはじめる。あっ! あっていたんだ! なんであんなに疑っていたんだろう、バスが停まるまではわからないじゃなか。
日は沈みはじめ、夕陽がヒマラヤ山脈を赤く照らしている。なんて大きい世界だ。やっぱり自分のいる場所に現実感がわかない。日本の生活とかけ離れすぎていて自分という“物”がわからなくなる。あたりは暗くなり、がたがた道のおかげで頭が痛い。寝ることにする。
12時前ににぎやかな谷の町に到着する。どうやらダムに着いたらしい。おばちゃんに宿の前で降ろされ、強制的にそこで一泊することになる。40元と高いくせに電気が使えない。荷物を置き、さっそく外に出て町をうろつく。
坂の多い町だ。角度も急でほとんど崖に近い場所に道が通り、建物が建てられている。どこかに滝があるのだろう、水が落ちる音がする。気温もチベットに比べてずいぶんと暖かい。店は遅い時間でも開いているし、にぎやかだ。ラサ→カトマンズと書かれた大きなバスが一台停車している。明日、このバスの人に乗れるか聞いてみよう。
部屋に戻り、ベランダに出て一服する。電気が使えないので、友人にもらったマグライトをたて、ろうそくがわりにする。便利なマグライトは本当に役にたつな、あかうさんに感謝しなきゃ。滝の音とけばけばしい電飾の灯り、明日にはネパールいりして、チベットの旅は終了だ。いろいろとあったな。暗闇の中で最近の出来事を考えると、やっぱり現実感がわかない。今までの自分はなんだったのだろう? 自分というのは確かだけど、過去の自分がまるっきりの他人のように感じてしまう。ギャップが人をすさまじい勢いで変えていく、その変化に慣れていないからそう感じてしまうのかもしれない。
変わっていく自分はとっても楽しい。それにうれしい。けど、頭のどこかで、その変化に耐えられるかと不安になっているのかもしれない。日本での心やすらぐごく普通の日常、それが二度と味わえないような気がしてしまう。けど、旅を続けるには、それぐらいの覚悟が必要なのだろう。うーん、チベットを越えたってまだまだあまちゃんだ。
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