今日も歩きすぎ
1/16 inラサ
目が覚めると夜明け前、せっかく早起きしたので完全防備に着替え、カメラを持ち、一服入れて外へ出かける。裏道を通り、ジョカンへ向かう。
あたりは真っ暗で人もまばらだ。暗くて細い裏路地は灯りがなくてほとんど見えない。リージャンの朝でもそうだけど、この時間帯は本当に神秘的だ。満月に近い月がまぶしいぐらい輝いている。その月を背景、チベタンの一般市民の生活が色濃く残る旧市街の写真を撮りながら循環する。
何度も歩いているので、感覚でジョカンへの道がわかってしまう。気がつくと人の流れができている。どこから人があふれているのか、本当に流れができるのはあっという間だ。薄暗い明け方のこの風景は本当に独特で何度みても飽きない。
チベタン文化を見ていると“廻る”ことを考えさせられる。仏教の教えが根強く残っているのだろう、輪廻転生、盛者必衰。チベタンの流れ、タルチョ、チベタンの髪型、ジョカンへの巡礼の道、ポタラ宮のまわりの道、一回転でお経を読んだことになる道具、チベット仏教ではいかに“廻る”ことが重要なのか思い知らされる。
ジョカンに着き、近くのベンチに座って朝日が昇るのを待つ。朝から五体投地している熱心な人が大勢いる。宗教の持つ力はすごいな、信仰心の薄い日本人にはとても理解できないことだろう。途切れることのない人の流れ、五体投地している多くのチベタン、これがラサの日常だ。世界は広いな。
朝日が昇りはじめ、まわりの景色が急激に変化していく。朝日をバックにしたジョカンはとても綺麗だ。びっくりするぐらい澄んだ青い空に、近くで延々焚かれている焚き火とお香の煙がまじり、なんともいえない景色を作り出している。朝の日射しは突き刺すように鋭く、この光を浴びた白と黄色のポタラ宮は見ごたえがありそうだ。そう思い、急いでポタラ宮へ向かう。
ちょう良いタイミングに日は昇り、ポタラ宮はオレンジ色に輝いている。いつも思うけど、白い建物に青い空は最高にマッチする。写真をたくさん撮り、急いでまわりのお土産通りを廻る。店はほとんど開いていないが、巡礼者の流れはとっくに出来上がっている。流れに逆らいながらぶらぶらする。お目当てのバナナチップ屋がまだいないので、近くの食堂で熱々の点心をたべて時間をつぶす。
10時を過ぎた頃にポタラ宮のまわりの道に戻り、バナナチップを大量に買う。ずっと気になっていたチーズを二種類買う。アオカビのついたようなチーズと、乳白色のきれいなチーズ、とてもおいしそうだ。
ホテルに戻り、チーズを試しに食べてみる。うーー、濃厚! なんてごつい味だ。これだけで食べるのはきつすぎる。チベタン特有のバター茶はこれでつくるのか? 作りたいがシェイカーがないので作れない。濃厚なチーズを食べていると、ワインにはチーズがあうというのがわかる気がする。
午前中からとばしすぎてしまい、部屋でくつろいでいると、ニューヨークから来たアメリカ人が部屋に来る。一緒に寺を見に行かないかと誘われる。うれしいけど、歩きすぎに、ぶりすぎ、面倒くさく感じて断る。なんてつきあいの悪い日本人だろう。けど、タイミングが悪い。ぶりると人とのコミュニケーションがおっくうになる。頭の使う他人との会話はぶりにはあわない。
のんびりしていると体力が戻ってきたので、一服してから再びジョカンへ行く。アメリカ人がジョカンは無料で入れるというので見に行くが、あまりたいしたことはない。まわりを流れているチベタンのほうがよっぽど見ごたえがある。五体投地のプロフェッショナルは、額にこぶのようなあざがある。地面にとびこむきれいなヘッドスライディングのような五体投地は、なんか筋トレをしているみたいだ。暇なのでそのままあたりを散歩する。見所があるから散歩ができるのかもしれない。
結局、2時間ぐらい歩いてしまい足はくたくただ。メシを食べて部屋へ戻る。シャワーを浴びた後、荷物をまとめてすぐに出発できる準備をする。それぐらいしかもうやることがない。ちょっとはやい気もするけど、明日は早起きするので眠りにつく。
ようやくカトマンズ行きのバスの出発日がくる。楽しくて、雰囲気のある街だけど、少し飽き気味のラサ。ネパールは毛沢東社会主義の“マオイスト”が活発に暴れているらしく、ヤフーニュースで物騒な事件を見てしまった。爆弾テロか、すこし怖いけどチベットに来たおかげで、神経はすでにおかしくなっている。どうせひき返す道はないし、進むしかない。心配したって何の得にもならない。
怖いぐらいの刺激があるほうがいいかもしれない。
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