自然が一番!

1/9  ジョンディエン→マルカム 


 待ちに待ったラサへの出発の日。太陽が登る前に起き、歯を磨いてうん○をする。今日も快便だ。荷造りを済ませてチェックアウトし、歩いて“TTB”の事務所へ向かう。


 事務員のすーさんは起きている。あいさつをしてイスに腰掛けると、意味のわからないことをスーさんが話しはじめる。ん、今日はラサ行きのバスがない? え!


 不安に思っていたことが的中してしまった。明日か明後日、もしかしたら、バスがあるのかもわからないとのこと。えーーーー! またジョンディエンに残らなきゃいけないと考えると、ため息がもれる。もどかしい気分になり、あせってしまう。


 スーさんはかたことの英語でさらに話しつづける。パーミッション(通行許可証)のことをくどくどと説明される。パーミッションはいらないって前回言ったのに、スーさんに説明するがほとんど通じない。辞書を見ながら話すスーさんにいらついてくる。


 「とにかく、ラサには行けるのか?」何度もたずねるが、とおまわしに答えて、結論が聞けない。何が言いたいのかわからない。このままでは行けない。8:30になったらバスターミナルに電話して、ラサ行のバスを調べてくれるらしいが、事前にそれぐらいするのがあたり前だ。こっちはすでにお金を払っているのに、なんて無責任なんだ。しかし、ここは中国、あきらめるしかない。電話だと余計なことを言い出しそうなので、一緒にバスターミナルへ行き、チケットを買ってもらうことにする。


 タクシーに乗りバスターミナルへ到着する。スーさんに聞いてもらっている間、ラサ行のバスが停まってないか調べる。平日にバスがないなんて考えられない。だけどバスはみつからず。


 スーさんのところに戻り、明日か明後日のチケットを買ってもらえないかとたのむ。窓口の人とスーさんが話している。どうやら、乗りついでラサに行けるらしい。しかも今日出発できるとのこと。よっしゃーー! ラサまでは行けないが、すこしでも前へ進める。このチケットを買ってもらえると思っていると、再びパーミッションについてくどくど説明しはじめる。すーさん、もういいから。むりに頼みこみチケットを手に入れる。やったー!


 すでに払ったお金は返してもらう。手数料が50元と高いが、すーさんはがんばってくれた。すーさんに案内され、バスに乗り込む。どこ行きのバスかわからないので、なおき君にもらった地図で確認しようとするが地図が見つからない。あれ! お金も財布もない! さっきポケットにしまったのは覚えているけど、それから記憶にない。さっき返してもらったお金は全部パーだ。すられたのか、落としたのかわからず、あたりを探してみるが見つからない。しかたなくあきらめることにする。


 朝からドタバタして気分がすぐれない。金は落とすし、ラサまで直行でいけないし、さんざんだ。そんな状態のままバスは出発する。公安はどこにいるのかわからない、不安だ。


 窓を眺めていると、景色はすごいことになっていく。山の中腹の細い道を登ったり、下ったりしながら進んでいく。目がくらむような、ばかでかい山々がそびえたっていて、雪がちらほら積もっている。今日も雲ひとつない青空で最高だ。荒れた岩山や、木が多少生い茂っている山がある。下を見るとすごい高低差だ。景色のおかげで気分が回復する。


 山間を抜けると盆地があり、建物が建っている。“ドラクエ”に出てきそうな崖に家が点々としている。よくこんな道を作り、こんなところで生活するな。あきれるぐらいに感心してしまう。それに電気は通っている。どこに行っても電信柱だけは目に入る。それが一番の驚きだ。


 バスは何度か休憩し、そのたびにかくれて一服いれる。おなじみの頭痛がはじまり、高山病は大丈夫かと心配になる。


 昼過ぎになると山の中腹を走る“空中ステージ”は終わり、“谷のステージ”へかわる。小さくてかわいいメコン川沿いをひたすら走る。緑色のメコン川は神秘的な色でとてもつめたそうだ。舗装されていない砂の道をひたすら走る。ここの景色もすばらしい。チベットへのバス代は高いが、ツアーと思えば安いものだ。それほどの景色だ。


 何度かゲートをくぐるたびに、胸が張りさけそうなぐらいどきどきする。緑色の公安を見るとまるで生きた心地がしない。


 夕方になり太陽は高い山々に隠れてしまう。頭痛は相変わらずだけど、高山病は大丈夫のようだ。心配していた公安の取調べもなく、神経質になりすぎていたかもしれない。外を見ているとチベットにありそうな五色の垂れ幕のタルチョが目につくようになる。チベット圏に入ったみたいだ


 あたりはすっかり暗くなり、バスは恐ろしいほどの細い山道をふっとばす。下を見るとジェットコースターから見る眺めよりも深い谷底だ。少しでも運転をミスったら深い谷底へまっさかさまだ。バスの運転手は異常なスピードで突き進む。


 夜の寒さへの防寒に着替え、バスで眠る準備をしていたら、一軒の建物に到着する。どうなるのかとあたりをうかがうと、乗客は荷物を持って外に出て行く。「もしかしてここで降ろされる?」そうではなくここで一泊するみたいだ。すーさんに「目立たないように静かにして、口を開いてはいけない」と言われていたので、無言のジェスチャーで部屋を案内してもらう。


 今日一日ろくな食べ物を食べていないので、近くの食堂でミーシェンを食べてから部屋に戻る。


 なんだかんだラサには向かっている。多くの心配や不安はすこしずつ解消されていく。何度も「行けるのか?」と、思ったけど、順調っていえば順調だ。残る不安は公安のみ。ラサに着けばそれも消える。


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