島最後の日
inシーパンドン 11/28
日が登る前に目が覚める。昨日は寝つきが悪かったわりに、今はあまり眠くない。明日の朝にパクセーに戻る予定なので、島で自由に遊べるのも今日で最後だ。ジャンベをたたく準備をする。チャリをこいで滝へゴー!
雨が降っていたらしく、地面は濡れていて、霧がたちこめている。軽快にチャリをこぎ、スピードを上げて走っていると、「ガチャン!」急にベタルがまわらなくなる。チャリをとめ、みるとチェーンが外れている。今日はいつものイエローチャリではなく、違う店のチャリを借りた。スピードに耐え切れなかったのか。というよりも整備不良だ。気は滝にむいているのであせってしまう。
10分ぐらい格闘してチェーンをはめる。両手の指は油と鉄のくずで真っ黒だ。おちにくそうだ。気をとりなおしてチャリを走らせる。
ドンコンに着き、チケット売り場、お土産屋を過ぎ、もう少しだと飛ばしていると「ガチャン!」まただ! うっかりスピードを出しすぎた。チャリをとめて修理をする。さっきやったばかりなので、直し方がわかったつもりだが、意外に苦戦する。なかなか直らず、あせりと怒りがわいてくる。チャリをけとばすと、前のかごにはいっていたジャンベと一緒に倒れる。ほうっておいて、チェーンをいじくると簡単に直る。「けりが効いたのかも」と思い、かごを見ると、ジャンベの皮の面がペッタリ地面についている。まずい! ジャンベをかごにいれ、滝へ急ぐ。
今日も滝の売店のココナッツおじさんはノリノリだ。ささいな出来事はあったが、宿を出た時間が早かったおかげで太陽はまだ昇っていない。ビーチに着き、たたく場所を決める。いざ、たたこうとするとジャンベの形が変わっている! 上から見ると円形のジャンベだが、外側の一部分がへこみ、そのぶん、まわりがもりあがっている。「さっきのチャリだ!」叩くと音が重い。湿気で皮がゆるゆるだ。皮を押すとへこみそうなぐらいやわらかい。かるいショックをうけるが、乾かせば元にもどるだろう。枯れ木を集めて火をおこす。
ブロッコリーのような木に着火すると、枝がいきおいよく燃える。ジャンベを火に近づけてかわかす。その間に太陽はじょじょに登りはじめる。朝からハプニングが多い。ジャンベを火にあてていると、昨日の夜に意味もなく塗った蝋が、皮から溶けはじめる。サーフボードにワックスをぬるみたいで、楽しくてやりすぎてしまった。「音が変化して独特な音になるかも」と考えていたが、意味がない。汚くなっただけだ。
火は大きくなり、ジャンベの皮はだいぶ乾く。岩に座り、たたきはじめる。「カンッ!」と、高音がスカッとした音だ。乾かしている間にぶりっていたので耳は上等だ。昨日はニット帽をかぶせてたたいた。今日は生だ。本気でたたける場所はすくないので、思う存分に楽しもう。ここはたき火するには絶好のビーチで、自然が豊富だ。とにかくたたきまくる。
二時間ぐらいたたき、ココナッツおじさんのところへ朝食を食べに行く。陽気なおじさんは常に上半身が裸だ。がたいがよく、脱ぐだけの体をもっている。パンケーキと飲み物をたのみ、おばさんとおじさんと一緒に食べる。ラオコーヒーをサービスでもらう。コンデンスミルクたっぷりで、とても甘いが、わりといける味だ。おばさんが少しだけ英語を話せるので、会話してからビーチへ戻る。サーフィン用語でいうと“第二ラウンド”だ。
すっかり太陽は昇り、雲はあまりない。日陰に座ってたたきはじめるが、また皮がゆるい気がする。気のせいかもしれないが、ジャンベを暖めることにする。火はほとんど消えているので、ジョイントを吸いながらライターで火をつける。なかなか火がつかないので、ライターが熱くなる。一度消え、もう一度つけようとしてもつかない。電気で着火するライターはかみあわせが悪くなり、無理につけようとすると「バキ!」見事にライターは壊れる。
しかたなく、かろうじて赤くなっている炭を集めて火をおこす。なんか原始人になったみたいだ。なんとか火がつく。ジャンベを暖めたあと、ライターをたき火に入れて爆発させる。
上機嫌でたたいていると、人がちらほらとやってくる。観光客タイムの始まりだ。時計を持っていなかったが、太陽は真上にある。区切りよくたたくのをやめて、ココナッツおじさんのところへ行く。「魚とチキンを食べましょう」みたいなことをおばさんが言っていたので、せっかくだから食べてから宿へ戻ろう。
お店にはお客がぽつぽつとおり、ココナッツを飲んで待っていると、外国人の団体が18名やってくる。おばさんは忙しくなり、厨房に入ったまま出てこない。おじさんはココナッツ専門なのでなにもしない。18名の団体料理を急に作り始めるのは大変そうだ。帰ろうと思ったが、今日で滝は最後だ。食事を待つことにする。
空腹に耐え、30分、1時間とぼーっと待つ。
団体の料理がつぎつぎと運ばれていく。自分は特に注文はしていない。おばさんが合間を見計らって、何か作って持ってきてくれると思ってしまう。
さらに30分、団体料理はすべてだされたみたいだが、自分には何も出てこない。それに相手もされない。ぶりッた頭で色々と考えてしまうが、一日だけなら待てると思い、さらに待つ。
30分後、団体客は料理をすべて食べつくし、くつろいでいる。おばさんが外にでてきてこちらを見る。「まだいたの!」みたいな、忘れていたかのような反応をしている。それを見た瞬間に何も食べずに帰ること決める。
その後もおばちゃんは何も作らず、外国人が全員帰ってから話しをする。
誰も悪くない。タイミングと自分の判断が悪かっただけ。けど、気持ちはやっぱりすぐれない。ココナッツ代を払い、礼を言って帰る。忘れられるのはさびしいことだ。
GHの近くで飯を食べ、シャワーを浴びる。明日のチケットをとり、散らかった荷物をまとめる。色々とやっていると夕方になり、太陽が沈み始める。
ベランダで日記を書いていると、蛍光灯に20センチぐらいのヤモリがいる。でかい。ペットショップでもこんな大きなヤモリは見たことがない。虫を食べている。今日は暑いせいか、灯りに飛び込んでくる虫の量が多い。
かわいさんが戻り、ろうそくで遊びながら話す。仕事のことやバンコクのことなど。良い人と一緒の宿で良かった。電気は消えて真っ暗闇になる。
かわいさんは部屋に戻り、自分は暗闇の中、ハンモックに寝そべってぼーっとする。道志川のキャンプで、夜に空を見ていたのを思い出す。空が光り始め、雨が降り始める。暗闇の中の雷は一段と綺麗だ。大粒の雨が降り始めたので部屋に戻って眠る。
その後も雨は降り続け、「洪水になるのでは?」と心配する。
島最後の夜は、ラオスに来てから一番印象の残る夜だ。
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