第101話 エピローグ:傷だらけの君へ(上)

 夜の森に、ブーツが草をこする音が溶け込んでいく。不思議と明るい森の中で、懐中電灯を消す。その足取りに迷いはない。多分、樹がいるとすればあそこのはずだ。


 不意に、視界が開けた。森を抜けた先に広がっているのは、それなりに広い高原。そのあちこちに、明らかに文明不相応な建造物の残骸がころがっている。他でもない、春香たちが最初に目覚めたあの場所だ。


 森を抜け、射し込む光量が一気に増える。月光が、まるで陽光のように降り注ぎ辺りを昼のごとく照らす。それは、都会ではまず見られない光景だ。


 その一角に寝そべる、ひとりの少年。


「……やっぱり」


 ため息をつく。

 つかつかと歩を進める。若草の立てる独特の足音に、少年がピクリと反応した。


「なんだ。雨宮か」


「『なんだ』じゃないでしょ? けが人は外出禁止のはずだけど」


「けがはしてないだろ? アレの後遺症だってたいしたことないし」


「あのねぇ……、突然眠くなるっていうのも、結構危ないことだからね?」


 流石に本気では思っていなかったようだ。「じと~」という視線を向けると、樹は「うっ」と言葉を引っ込め、居心地悪そうに頬を掻く。視線をこちらから外し、「わ、わかってます……」と呟いたのが口の動きからなんとなく読み取れた。


 ひとまずは許すことにし、ジト目をやめる。すると、樹がほっと息をついた。「となり、いい?」と訊くと、樹は無言で少し身体をずらす。それを座って良しと解釈し、春香は樹の隣に座り込む。


 柔らかい草のクッションが、おしりを優しく押し返す。硬いのかと身構えれば、実はそうでもなかった。この感触、嫌いじゃない。


「ねえ。どうしてここに来たの?」


「ん」という声と共に、樹が後ろを指さす。それがなにかを認識したとたん、「あ……」という声が意図せず零れた。


 ひときわ大きな建物の残骸。その前には、土に突き立てられた棒。おそらく、二十本近い。そのひとつ一つに、何か文字のようなものが刻まれているのがうっすらとだが見える。


 あれは――、


「……お墓?」


「後藤さんに聞いた分だけ。せめて、これくらいはしたかった」


 それは、ここで死んでしまった仲間の墓。この世界に飛ばされ、そして理不尽に命を奪われてしまった人たち。


「そっか」


 ひとりで? とは訊けなかった。どう考えても、樹がそうしたかったのは明らかだから。晴香が樹だったなら、『ひとりでここにいる』とはそういうことだから。


「なんか、夢みたいだね」


 特別、何か意図があったわけではない。共感してほしかったわけでも、言ってしまえば樹に聞いてほしかったわけでもない。樹の隣に座って、一緒に星空を眺めて、ふと、そのことを実感したのだ。


「不思議なことがたくさん起きて、それから町のピンチを救って」


 本当に、怒涛の数か月だった。この世界に呼ばれてから早々に死にかけ、寸でのところでミレーナたちに拾われた。それから魔術を突貫工事で覚え、同郷の仲間と再会し、止めの一撃に迷宮の拡大を食い止めた。


 とことん、夢のように非日常的な生活だった。いま日本に戻ったら、これが夢だったと言われても疑いなく信じられるくらいに。身体についている傷が催眠術だと言われても、なんら違和感を抱かないくらいに。


「俺も……夢を見てるみたいだ」


 ぽつりと、樹が独り言のように呟いた。


「そういえば、結局どうやってミレーナさんを呼んだんだよ」


「あー……えっと、わたしからは言えないなぁ。ミレーナさんが教えてくれると思う」


 言えないのは本当だ。事実、ミレーナには口止めされている。でもあの様子だと、秘密を守るというよりはもっと別の理由があったような気がしたけれど。


 それに、詳しく話せと言われても、春香には説明できないような気しかしなかった。なぜなら、その話の肝を説明できないから。思い至ったのは、春香自身ではないから。晴香ではない誰か、おそらく、あの迷宮で死んだ誰かの魂。だけど確証はないから、説明するのは特別難しい。もしかしたら……ミレーナが話すなと言ったのはこういう理由なのだろうか。


「神谷くんの方は、どんな感じだったの?」


「お前……話さないのに俺に振るか?」


「い、言いにくいことは言わなくていいからっ。その、ぼ、ボスモンスターをどう攻略したかが聴きたかっただけ。ほら、その……今後の参考になるかもだし」


 痛いところを突かれ、若干声が裏返る。そんな様子を見つめる樹の目は穏やかで、しばらく宙を見つめてから、首を振って口を開いた。


「……覚えてないんだよな」


「え?」


「ボスと戦ったことは覚えてるんだけど、どんな風に戦ったかとか、どんな感覚だったのかとかが思い出せない。なんだろうな、こう、番組の内容を思い出せない感じに似てる」


「それって、薬の後遺症とか――」


「それはない……はず。多分、理由は別にある」


 樹の言葉で、背筋がひゅうっと冷えるのが解った。樹がどうやって戦ったのかを知らないからなおさら。知っているのは、樹が勝手に調合した薬剤を使っていたということだけだ。ミレーナに訊いても、それがいったい何なのかは教えてもらえなかった。そのことが、余計に不安を煽る。


「もしかしたら、あのとき戦っていたのは俺じゃなかったのかもな」


「…………」


「冗談だって」


 慌てたように樹が訂正する。本当に樹は冗談のつもりだったんだろう。だけどなぜか、それが正解のような気がしてならなかった。


 この世界に来てからちょくちょくあった、不思議な言動。自分が知らない、この世界の知識。まるでそれを使ったことがあるような言動。もしかしたら、本当にそうなのかもしれない――その思いが何故か抜けなかった。


 だがそれを、樹は覚えていない。多分、樹に訊いてみたところで何もわからない。

 真相は闇の中だ。


「…………」


「………………」


 しばし、沈黙が流れた。切り替えなくちゃいけない、そう考えると、どう切り出せばいいのか解らなくなった。


 話したかったのは、元々そういうことじゃなかった。言いたいことははっきり解っている。まずは、「ごめん」と切り出せばいいのだ。しかし、その後どんな風に言えばいいのかがさっぱり解らない。


 いまさらながらしり込みする。ちゃんと言うんだと、その意思はあるのに覚悟が決まらない。こんなところに来ても、自分はまだ樹に嫌われたくないという気持ちが勝ってしまっている。いい子ちゃんになろうとしている。


「…………ごめん」


 先に切りだしたのは、樹だった。


「あの時のこと……あんな言い方して……ごめん」


 はっきりした口調ではないけれど。顔を伏せ、どんな表情なのかわからないけれど。確かにそういったのが解った。


「ううん! わたしこそ、役立たずなんて言っちゃって……」


「ははは、あれは、まぁ……間違ってはないし」


「そんなことない!」


 思わず、樹の言葉を遮る。言葉が切れ、樹の目が驚きに見開かれる。それは大声を出したからなのか、それとも、否定されたからなのか。


「ごめんなさい! あのときの言葉を、ちゃんと説明させて」


 聞いて! と、何か言おうとした樹を強引に勢いで抑え込み、言葉を続ける。


「わたし、悔しかった。わたしはわたしなりに頑張ってるのに、神谷くんはどんどん先に行ってるような気がして。あのときの言葉で、わたしのことを全否定されたような気がした……ううん、それだけじゃない」


 そうだ、本質はこんなことじゃない。

 いまの気持ちだって、ぐちゃぐちゃになったものの一番マシなところを持って来ただけだ。このぐちゃぐちゃな気持ちの核は、そんなものじゃない。もっと汚くて、ズルくて、自分でさえ幻滅してしまうものだ。


「きっと……きっとどこかで、君のことを下に見てた。『対等になりたい』なんて思いながら、心じゃどこかで君を見下してたの。魔法も魔術も使えない……それがすべてじゃないのに」


 魔法は、確かに便利だ。使うことができれば、使えない人と比べて圧倒的に生存競争、その他もろもろで有利に立てる。だけど、所詮はそれだけだ。使えるからと言って、その人の価値がそれだけで決まるわけじゃない。


 むしろ、樹との模擬戦では負け越す時だってあるのだ。その有利なツールを使っても、樹はさらにその裏をかいて攻めてくる。対策されてしまえば、魔術師のアドバンテージなんてすぐに消えてしまう。それなのに、どうして魔術が使えるだけでそんな風に思っていたのか。


 思い上がりだ。自惚れだ。これが自分の――一番汚くて大嫌いな部分だ。


「わたし、こんなに嫌な奴なんだ。神谷くんが思ってるより、わたしは綺麗じゃないよ。だから、」


 グイッと、樹の方に身体を向ける。鳩が豆鉄砲を食ったよう――目の前の樹は、本気でそんな言葉が似あう表情を浮かべていた。


 言え、言え、言ってしまえ! 


「嫌われついでにもうひとつ!」


 この勢いに任せて。


「神谷くんが、なんでそんな風に考えるようになったのかは解らないし、それを話せなんて言わない。だけど、これだけは言わせて」


「…………」


「全部ひとりで抱え込まないで」


 解っている。場違いだということくらい。

 謝罪の場で相手にもひと言文句をぶつける、それが異常なことだって解っている。


「確かに、言ってもどうしようもないことだってあると思うよ。神谷くん、頭良いもん。多分、本当に言ってもどうしようもないことなんだと思う」


 それでも、これだけは伝えたい。


「でも……、だからってわたしに関係あることを隠してもいいなんてことにならないっ」


 晴香は、樹ではないのだ。

 頼ってほしいとか、そういう相手のためのことじゃない。言っても仕方ない、そんな理由で自分のことを決められない、知ることもできないのが嫌なのだ。


 殴られるのが嫌とか、いじめられるのが嫌とか、それとおんなじことだ。これだけは、どんなことを言われても譲れない。嫌なものは嫌。相手が誰であってもそうだ。樹でなくても、いや、樹だからこそ、隠されることが嫌だった。


「言いたくないことを言えなんて言わない。だけどお願い。わたしが関係してるなら、ちゃんと話して。わたしにも……考えさせてよ……ッ」


 言葉の最後は、かすれていて自分でもよく聞こえなかった。なぜそんなことになったのか、それがさっぱり解らない。言っていてみじめにでもなったのだろうか。それとも、樹の言葉が怖くなったのか……。


「さ、さあ! 反論!」


 それを無理に押し殺し、勢い任せに言い切った。

 気が付けば、肩で息をしていた。吐き出す息が震えているのが解った。今更になって怖くなったのだろうか、途端におかしくなって自嘲的な笑みになる。樹の顔が見れない。この後に返ってくる言葉が解らなくて、樹がどんな顔をしているのかを知るのが怖くて、顔はうつむいたまま、その時を待つ。


「……ごめん」


 返ってきたのは、謝罪の言葉。


「雨宮に関係あることも黙ってて。そう思うのが普通だよな。ごめん、考えてなかった」


 晴香を否定するような言葉は、一切なかった。その声も穏やかで、柔らかなもの。その場しのぎの不服そうなものではなく、はっきりと、心の底からそう思っているように感じる。


 反論があってもいいはずだ。晴香の気持ちだって、自分勝手な独りよがりだ。樹が何を想ってそうしたのかなんて全く考慮していない、びっくりするほど自分のことしか考えていない言葉だ。なのに、それがなかった。


 隣から聞こえた、ふぅっというため息。

 顔を上げる。


「ダメな、俺」


 すぐに悟る。

 その発言がどういう意味なのか、瞬時に理解できた。


 樹が責めているのは、自分自身だ。


「自分のことしか考えてない……」


「そんなことない」


「買いかぶりすぎだよ。雨宮が思ってるほど、俺はいい人じゃない」


「……………」


「いつも、動いてる自分をぼんやり見てる俺がいる。後々思い返せば、俺は自分に利があるかどうかいつも考えてた。自己満足なんだよ。全部、自分のためなんだよ」


 その拳が、固く握られる。


「……大っ嫌いだ」


 それは、異常なまでの自己否定。病的なほどに、自身の行動をすべて悪とみなしていると断言していいほどにとげとげしいものだ。しかも、樹には一切の迷いはない。もう樹の中では、その感情には決着が付いてしまっている。


「はぁ~~……どうしてそうなっちゃうかなぁ……」


「は?」


 隣に座る想い人は、きょとんとした表情を浮かべている。


「もし本当にそうだったら、わたしは今ここにいないよ」


 自分の言い分が、すべて正しいとは思わない。だけど、いままでの樹の言葉からして、絶対に、「言わない」なんて選択を無意識でとっているはずがない。これには確証がある。


 だが、『言っても仕方ないから言わなかった。それって、余計な心配はさせたくなかったってことでしょ?』そう言った場合の反論は予想できる。きっと、「自分の自己満足だ」で片づけられてしまう。だから言わない。出しても否定されるのは、出す意味がない。


 言っても意味がない。だからこそ、あのときの話を持ってくることに意味が出てくる。


「自分のためだって本気でそう思っていたら、あの時わたしの身代わりになって死にかけたりしない。そうでしょ? 絶対バランスが合わないもん。君は絶対、損得勘定だけで動くような人じゃない。君がなんて言おうと、わたしはそう信じる」


 そんなんじゃない。もしかしたら樹はそう言うかもしれない。だけど、それだと納得できないのだ。いくら頑張っても、説明がつかない。


「あのとき」とは、ジャイアント・オークに殺されそうになった時のことだ。あのまま行けば、春香は確実に死んでいたが樹はどうにかして逃げられたはずだ。逆に言えば、春香をかばうことで、樹は自分が助かる道を自ら手放したのだ。何度シミュレーションしても、あの状況から樹が助かる道はなかった。


 損得のみを考えて、やることなすことは全て自分のため――そんな風に考えている人が、自分の心の均衡を保つためにわざわざ死にに行くようなことをする。行動がどう考えてもアンバランスだ。割に合わない。もし樹が本当にそう考えている人ならば、真っ先に晴香を見捨てて逃げるはずだ。


「それに、わたしだって神谷くんが思うほどいい人じゃない」


 樹が頑なに自己否定する理由はなんとなくだが察しが付く。

 樹はたぶん、「自分のため」っていう感情をよく思っていないのだ。どうしてなのかまでは解らない。それでも、その気持ちを抱くことには共感できる。


「自分のため、自分のためって言うけど、そんなの当り前だよ。わたしだってそうだもん。ミレーナさんを呼びに行ったのだってそう。神谷くんがいなくなったらわたしがダメになるからっていう、そんな身勝手な理由。さっきのお願いも。せっかくわたしのことを考えてくれるなら、されてうれしいことをして欲しいって、それだけ。ね? わたしだってじゅうぶん自分勝手」


 なぜなら、自分だって思ったことがあるから。


 前に一度、考えたことがある。どうして自分は、他人から頼られると嬉しく感じるのだろうと。いままで考えたこともなかった。ある人に言われて初めて疑問に思ったのだ。考えてみて、とある仮説が浮かんだ。


 社会欲求と愛の欲求――抱いている感情はこの二つなのではないかと。


 誰かの役に立ちたい。その感情は、そうしないと不安だからやっていることではないだろうか。相手のためなどではない。その場所にいられなくなるのが怖い、関係を壊したくない、ひとりになりたくない……そんな、自分の欲求を満たすためだけにやっているだけなのではないかと。


 嫌になった。他でもない、自分自身のことが。

 そんなことを思いついてしまえたことが嫌だった。もしかしたらそうかもしれない、そう考えてしまった自分が嫌だった。


 何よりも、納得してしまった自分が嫌だった。


「でも、」


 だとしても、


「そのおかげでなんとかなったこともたくさんあるよ。神谷くんが自分勝手だって言うのなら、今わたしが生きているのも、君の勝手な行動のおかげ」


 それで、命を繋いだものがいる。


「もちろん、自分のためっていうのが絶対に正義かって言われたらそうも言えないと思う。それでも、君が自分のために行動したから、救われた人がいる。その人にとっては、君の動機なんてどうだっていいの。君のおかげで助かった。大切なのはその部分」


 これは、母の受け売りだ。自分のためという気持ちが当たり前なことも、結果的にそれが他人にとっての救いになっていることもあると、教えてくれたのは母親だ。それで救われた人がいる、自分はそれを見て満足する。いったい何がいけないことなのか、そう諭された。


 感情なんて、自分にしか解らない。他人が見るのは、その後の行動だ。どんなにその人のためを思って考えていたとしても、それがその人にとって害にしかならないのなら、きっとそれは拒絶される。「自分のために」その気持ちがあったから救われた人がいる。


「だから、自分のためっていう気持ちが絶対悪だなんて思わないで」


 その日から、受け入れることにした。

 助けたいから助ける。力になってあげたいから相談に乗る。ひとりになりたくないから、みんなと仲良くする。そうすることで上手くいくなら、自分のために行動してなにが悪いのか。そう、割り切るようにしたのだ。人は自分のために動くことだってあるんだと、受け入れることにした。


 それで今まで、上手くいっていたんだから。


「……敵わないなぁ」


 ふっ、と息を吐き、樹が苦笑した。


「もうすこし、努力してみる」


「うん」


 自分の考えがすべて正しいは思わない。むしろ、間違いだらけだと思う。雨宮 晴香という人物は、自分が思っている以上に子供で、無知だとかもしれない。それでも、今の話は間違っていないはずだ。訂正しなければいけないような考えではないはずだ。


「簡単には変わらないかもしれないけど」


「ううん。変わってるよ。前よりもずっと取っ付きやすくなった」


「いや、そっちはお前がぐいぐい来るから対人経験が磨かれただけで……」


「ええっ、わたしどう思われてたの⁉」


「世話好き委員長」


「委員長はやってな・い・で・す!」


 いつものノリにいつもの返し。本心をさらけ出し、手加減なしでぶつかった結果、ようやく取り戻せたなんて事のない日常だ。そのことが、無性にうれしかった。


「ねえ。早速訊いていい?」


「ん?」


「わたしたちの寿命」


「ああ、そっか、そうだった。言ってなかった」


 不思議と、もう大丈夫だ、そんな予感がした。今度は何も隠すようなことをしない、そんな根拠のない自信があった。


「二十年」


 息を吸うような、自然な声だった。


「この世界に来た迷い人は、それ以上生きた前例がないんだってさ。俺たちが例外だって考えるのは、楽観的過ぎると思う」


「そっか……結構短いね」


 自分でも理解できないほど、声が落ち着いているのが解った。それは、取り乱したところでどうしようもないことを知っているからだろうか。それとも、さっきの言い合いの反動がまだ感覚を麻痺させているからだろうか。


「神谷くんは、その、元の世界には――」


「帰るよ」


 晴香の言葉が終わる前に、樹がそう言った。


「俺は、元の世界に帰る。たとえ何年かかっても、絶対に戻る」


「危険かもしれないのに?」


「約束してるんだ。それを破りたくない」


「約、束……」


 思い当たることがないということは、晴香の全く関係ない話なのだろう。首を突っ込む話じゃない、そう判断し、春香は思考をやめる。


 だが、樹は違う風に解釈してしまったようで――、


「…………妹が、いたんだ」

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