第100話 記録無き想い
あなたに初めて会った時のことは、よく覚えています。
軍の制服を着て、腰には見たことのない剣を着けていましたね。ぶっきらぼうで、どこか不本意そうな目をしていた。わたしの部屋に入った途端、どこか悲しそうな顔をした。
あなたと一緒に過ごすことになる。びっくりしたかもしれませんが、本当に何も感じなかったのです。あのときのわたしは、自分のことを本気で人形だと思っていたのですから。
どうせわたしを見てすぐにいなくなる。思ったことはそれくらいでした。前にいた監視役もそうだったのです。わたしの正体を知って、気味悪がっていなくなる。これまで相手にしてきた七十五人の監視役は、二週間と持ちませんでした。
本気で驚いたのですよ? あなたの口から、「興味がない」なんて言葉が出たときは。「お前が誰だろうと興味はない。勝手にやれ」思い返せば、〝腹が立つ〟という感情を知ったのは、あの時なのかもしれません。
わたしには何の興味もない。お前は特別でも何でもない。面倒くさい……そんな心が透けて見えているようで心底腹が立ちました。しばらくわたしといなくてはいけなくなった時、「ざまあみろ」と心底思いました。ごめんなさい。
あなたからは、色んなことを教わりましたね。
わたしの知らない外の世界。文字でしか知らない砂の国。想像なんてできない氷の国。空飛ぶ島があるなんて、最後まで信じられませんでした。
色んな所を回って、色んな冒険をして、この世界は宝物なんだって心から思えました。気が付いたら、あなたがいることが当たり前になっていました。
ありがとう。たくさん、たくさん、ありがとう。
あなたには、本当に感謝をしています。
それから、ごめんなさい。
色々なものを貰って、結局あなたには何一つあげられなかった。あなたの心の支えにはなってあげられなかった。
わたしには、何があったのか知らないから。あなたの気持ちを分ってあげられなかった。
心残りはそれだけです。
できれば、あなたの心を開きたかった。わたしも、あなたの支えになりたかった。
ありがとう。
行くなと言ってくれて。
ありがとう。
わたしに、救う意味を教えてくれて。
ああ。
それから、勝負の景品を使うのを忘れていました。
命令します。
生きてください。
わたしが救ったこの国で、精一杯幸せに生きてください。
わたしが、この国を救ってよかったと思えるくらいに。生きてください。
あなたとは、お別れです。
最後に、ごめんなさい。
あなたとの約束を破ることになってごめんなさい。
でも、どうしてだか思ってしまうのです。
あなたとは、また必ずどこかで会える。
わたしの勘です。信じてください!
もしかしたら、この世界じゃないのかもしれない。そのときのわたしは、わたしではないのかもしれない。でも、わたしは必ず会いに行きます。叱られるのは、そのときにします。ミレーナさんには、「ごめんなさい」と伝えてください。
だからそのときまで、
さようなら。
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